チーム悪役!
教室に入ると既に李紅は席に着いていた。昨日程ではないが、お近付きになりたそうな男子がそわそわと彼女を見ている。それらを無視して李紅は読書に勤しんでいた。
昨日の視線を思い出した私は、奏悟とわかれて、彼女の席から遠い列を選んで自席へと行く。なるべく目立たないよう、横目で李紅を見たが、彼女がこちらを向くことはなかった。
その後も順調に授業は進み、昼休みも終わり、何事もなく終わるという頃であった。奏悟が先生に呼ばれたので、私は彼が帰ってくるまで教室で借りた本を読んで待っていた時だ。
「氷華さん、よろしければ今から皆さんと課題をやりませんか」
「私、ぜひ氷華さんに教えていただきたいところがあるのです」
「はぁ、今日もお美しいですわぁ」
「李紅さま、きゃわわ〜」
複数の女子の声が聞こえてきた。しかも内容は李紅と一緒に課題をするという、友達欲しいぼっちには悔し涙なものである。
奏悟の助言がある手前、関わりに行くのは得策ではない。しかし、ちょっと見てみたい気持ちがある。
くっ……!
数秒悩んだ末に出した答えは、バレずに遠くから覗こう! である。
奏悟に知られたら怒られそうだが、バレなければいいのだ。そう、これはフラグじゃない。決して。
声は廊下からするから、私は教室の扉をそっと開けて見た。女子達は教室より少し離れたところにいた。
後ろ姿の李紅と彼女を中心に扇型に囲むのは四人の女子だ。顔は見えないが、同じ色のスリッパを履いているので他クラスの人達だろう。
「氷華さんと同じクラスなら良かったのに、本当、二組の人は氷華さんの凄さをわかっていませんわ」
「全くです」
「李紅さま、おかしたべる〜?」
「ちょっと、お菓子は駄目ですわよ!」
舌足らずな声で変に間延びする話し方をする子がいる。誰だと見ると、その子の顔に見覚えがあった。
ゆるふわの髪をツインテールにした、背の小さい女の子。女児と見間違う幼さはモブなのにキャラが立っていると話題になった子だ。
モブだから彼女の名前は知らない。しかし、これだけはわかる。彼女は李紅に取り巻き、李紅に内緒でヒロインを虐めてた子だ。と、いうことは他の三人もゲームで何度か出てきた李紅の取り巻き達だ。
まさか既に取り巻きがいたとは。
チーム悪役が揃っていると、戦々恐々とする私を他所に、彼女達の会話は弾んでいく。しかし、李紅だけは一人静かに微笑んでいるだけだった。
「……?」
どうしたのだろうか。ゲームでは普通に彼女達と会話していたが、本当は仲があまりよろしくないのだろうか。それとも、実は知り合ったばかりでまだ恥ずかしがっているとか。
むむっと考え込んでいると、頭の上に何かが乗っかった。温かいそれは、徐々に力を込めてくる。
「……」
まさかと思って上を辿ると、爽やかな笑みを浮かべた奏悟が、「やぁ」と言った。
フラグは見事回収されることとなった。