佐藤親子と、
「母さん、俺もハンバーグ食べたいんだけど」
マシンガントークを炸裂させている母親を止めて、奏悟は空の弁当箱を流しに出した。
「仕方ないわね、父さんのハンバーグを少なくしましょう」
本人の居ない間にハンバーグの量が決められていく。父親とはなんと悲しいかな。
心の中で父親に謝り、奏悟は一成と共に自室へと向かった。奏悟の部屋は和室で簡素なものだが、畳や檜の匂いが満ちてとても居心地の良い室内となっている。
一成は深呼吸をして荷物を置くと、箪笥の一番下を開けた。そこには少ないが一成の着替えや下着が入っている。それだけ奏悟の家に泊まってきたのだ。ジャージの上着を脱いで、シャツも脱ぐ。箪笥から着物を取り出して羽織ってから、履いていたズボンも脱いで、着物を着流した。
「毎度、律儀だね。うちの家に合わせて着物を着なくていいのに」
いつの間にか奏悟も着物を着て、脱いだ時に乱れた髪を手櫛で直している。一成は脱いだ服を丁寧に畳みながら小さく応えた。
「別に、俺が着たいだけだから」
「……そっか」
奏悟の家は古くからあり、一部リフォームして洋式となった部屋もあるが大部分は昔のままだ。そして彼の家系は歴史や昔の生活を重んじる傾向がある。
母親の聡美や奏悟は楽な暮らしが出来る現代が好きで、最近では父親も母親に事あるごとに利便性を説かれ現代側になりつつある。しかし、それを良く思わない親族がいる。
面倒な争い事は避けたい故に、せめて見掛けだけでも着物を着て、たまに挨拶にくる親族に古き良き生活を忘れていませんよアピールをしているのだ。
自分がこの屋敷を継ぐ時には、せめて椅子に座って食事をしたいと奏悟は考える。畳とはいえ床に座って食事をしたり作業をしたりは身体的に辛いのだ。
来客用の座布団を一成に渡し、自身も座布団の上に座る。奏悟は一成の顔を見ながら、さて、どうしたものかなと考え込んだ。
一成の親代わりである和枝が検査入院で、彼の今の心は非常に不安定なものだ。そんな状態で杏香のことを話せば取り乱すこと間違いない。しかし、いつまでも一成に黙っておくわけにもいかない。何より、彼女を守る為に味方が欲しい。
一成という幼馴染みが味方になってくれれば、これ以上の心強い味方はいない。それに彼なら、自分にはない物の見方を捉えられる。
やはりここは今伝えるべきかと、奏悟は口を開いた。
「一成、杏香のことで話さなければならないことがある」
「なんだよ」
急な話に一成は怪訝そうに眉を寄せた。




