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昔ながらの。


 私に気付いた奏悟が視線を上げて見てくる。きっと今の私は顔が強張っていることだろう。

 「……何かあった?」

 奏悟は目を細めて囁くように問うてきた。私は彼の前の席に座って一息吐いた。

 「女子トイレでちょっと……彼女に会って」

 名前は言わないが、奏悟ならすぐにわかる。察した彼は眉間に皺を寄せて、腕を組んだ。

 「何か言われたり、された?」

 「ううん。すれ違っただけだから。向こうはこっちに気付いてなかったぽいし。でも焦ったぁ」

 私の草臥れた様子を見て、奏悟は一つ頷いてみせた。

 「何もなくてよかったけど、気を付けて。彼女は仲間内には親切だけど、それ以外には苛烈さを含んでいると言っていたから」

 奏悟が真剣な表情で言う。

 確かにゲームでは恋人の奏悟に優しかったが、苛烈とはどういうことだ。ゲーム内容だとそんな感じなかったはず。そしてもう一つ気になるのは、その評価を下した人だ。

 「誰がそんなこと言ってたの」

 気になって訊くと奏悟は目を細めて口の端を吊り上げた。

 「秘密」

 にやっと笑う表情が乙女心を掴んでくる。しかし、ここで見惚れていても仕方ないから、当初の目的である貸出の方法を教わることにした。図書室にどんな本があるのか見ながら、借りたいと思った本を持って奏悟のもとへ戻る。

 「ここにカードがあるから日付と名前を書いて出してね」

 手にした本の裏表紙を捲ると小さなカードが手作りの紙のポケットに入っていた。返却する時はカウンターにいる図書委員に学年と組みを言うだけでいいらしい。

 奏悟は本の背をそっと撫でると、眉尻を下げて笑った。

 「町の図書館だとバーコードで簡単に出来るんだけどね」

 「へぇ〜、進んでるねぇ」

 「興味あるなら今度案内するよ」

 そんなやりとりをしながら、名前を書き込んでカウンターにいる図書委員に差し出す。図書委員の人はカードを受け取ると、返却日を書いた紙を代わりに差し出してきた。これで完了のようだ。

 「じゃあ、他の教室を見てまわろうか」

 「うん」

 借りた本を鞄にしまい、図書室を出る。奏悟を先頭に別棟へと移り、階段を登ると、トランペットやフルートの音色が徐々に大きくなって聞こえてきた。

 左右にわかれた扉の上にはそれぞれ音楽室と美術室と書かれている。

 「ここが音楽室と美術室ね。丁度、部活してるから見ていく?」

 「いや、大丈夫」

 そのお誘いはイケメンによるリスクが高いので速攻で遠慮した。奏悟は特に気にすることなく頷いて、じゃあ次ねと階段を降り始めた。

 

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