図書室の前に!
「あ……」
金縛りから解けたように、ぎこちなく息が漏れる。奏悟は私を一瞥すると、李紅へと視線を移した。こちらから奏悟が何をしているのかわからないが、李紅はこちらを見るのをやめた。
「……彼女が危害を加えるとは思わないけど、用心に越したことはないからね。あまり彼女には近付かない方がいい」
そう静かに言うと奏悟は片手をあげて、じゃ後で、と、自分の席へと戻っていった。
奏悟の言う通り、現時点で恋人関係ではないから関わり合うこともないだろう。しかし、既に李紅が奏悟のことを好きでいるのなら私の存在は目障りだ。
「……」
李紅の本心はわからない。
ここは様子見かな。先程の李紅の瞳を思い出しつつ、私は溜息を吐いた。
午後からの授業が憂鬱になってしまったな。
チャイムを聞きながら、私は教科書を取り出すのだった。
帰りのホームルームを終わらせて、生徒達はそれぞれ教室を出て行く。李紅も他の生徒と同じように鞄を持って出て行った。それを見届けてから私も席を立つ。
「さて、本の借り方だったね。図書室行こうか」
先に準備の出来ていた奏悟が声をかけてくる。
「あ、待って。お手洗いに行ってくる」
「わかった」
「先に行ってて、すぐ行くから」
奏悟に先に行くよう促すと、きょとんと目を瞬かせていた。
「待つよ?」
奏悟にとっては当たり前の選択なのだろうが、流石にトイレに行っている間、待ってもらうのは申し訳ない。
「大丈夫だから、行ってて」
今度は奏悟の返事を聞かずに教室を出た。
きっと先に図書室に行くだろう。お願いだから、そうであってくれ。
そんなことを願いつつ、教室を出て近くの女子トイレに入る。用を済まして手を洗っていると、誰かが入ってきた。
丁度、鏡にその人が映ったのでちらりと見てみると、なんと李紅だった。私は思わず息を呑む。彼女に気付かれるかと身構えたが、こちらに気付く様子もなく個室へと入っていった。鍵がかかった音を聞いて、私は急いで手を拭いてトイレから出た。
先に教室を出たから、もう居ないと思って油断していた。
まさかここで鉢合わせるとは思わなかったわ。
私は逸る気持ちを抑えて図書室へと向かった。教えてもらった道順を思い出し、辿り着いた図書室には生徒が数人いて、机に教科書やノートを広げてペンを走らせている。自主学習目的の彼等とは別に、隅の方では静かに本を読んでいる奏悟がいた。