氷華さん家の李紅ちゃん。
毛布に包まると意識がスッと落ちていく。夢らしい夢を見ることなく、暗闇の中から急にけたたましい音が鳴り響いて、私は慌てて飛び起きた。
薄暗い室内の中で鳴り響いていたのは目覚まし時計だった。それを止めて時間を見ると、六時半だった。
「……」
カーテンの隙間から陽が差し込んでいるから朝の六時半に間違いない。夢も見ず、寝て起きたら既に朝って、寝た気がしないな。そんなことを思いつつ、着替える。
身嗜みを整えてリビングへと行くと柚月さんはいなかった。テーブルの上には朝食とお弁当が置かれている。
柚月さんはいつ帰ってきたのだろう。疲れているのに朝食まで用意してもらって申し訳ない。
しょんぼりしつつ、今日帰ったら朝食ぐらいは自分で用意しますと言おうと決意する。お弁当は料理の腕前が絶望的なので購買か、おにぎりを作ろう。昨日の家を出た時間から逆算してあとどれくらいの余裕があるのかを考える。
お皿を洗うぐらいの時間はあるかな。
私は急いでご飯を食べた。食器を洗い、歯磨きを済ませて荷物のチェックをしているとチャイムが鳴った。返事をすると相手は奏悟だった。
「おはよう、よく眠れた?」
「おはよう、うーん、どうだろうね」
「眠れなかったの?」
「眠れたような、疲れが取れてないような?」
そんなやりとりをしつつ、彼には少し待ってもらって家を出る。柚月さんの靴はあるから、やはり寝ているのだろう。柚月さんがいないことに奏悟も気付いたが、休んでいるとわかっているようで何も言わなかった。
そのまま二人で登校して、教室に入ると何だか騒ついていた。
なんだろう。
特に男子が落ち着きないなと思っているとその原因がわかった。昨日の欠席していた場所に黒髪ロングの美少女が座っていて、クラスの皆がその子に注目していたのだ。
私は彼女の顔を見た瞬間に息を呑んだ。まだ幼さが残るが彼女は李紅だ。
まさか同じクラスだったとは!
私はすっかり彼女のことを忘れてしまっていて、あまりの驚きように隣いた奏悟が小声で心配してきた。
「どうしたの、大丈夫?」
「ハッ」
我に返って、慌てて奏悟の腕を掴む。そのまま教室の奥まで連れて行くと、壁の隅に寄って隠れるように奏悟と顔を合わせた。
「奏悟は今、彼女いる……!?」
「え? いないけど?」
訳がわからないと戸惑いつつも、律儀に答えてくれる奏悟に私は安堵した。李紅が奏悟の彼女でないのならば、まだ私にも希望がある。
今のうちに奏悟とは何も無いとわかってもらえれば、李紅の嫉妬対象にはならないはずだ。