夜に変わる。
「今日はバスケやるからなー」
やや明るめの髪色でモデルさんのような容姿の先生は、女子生徒から来る熱烈な告白を受け流して予定を淡々と話した。
他の生徒の反応を見ると恒例のようで、誰一人気にしていなかった。格好いい、結婚してーと叫ぶ女子生徒も笑って言っているから冗談なのがわかる。
「最後は試合するからなー。準備運動したら男女わかれてシュート練習していけー」
気の抜けるような独特の話し方で再び笛を鳴らす。それを合図に生徒は散らばるとそれぞれ運動を始めた。
コートの周りを走り、腕立て、腹筋、背筋としていく。見よう見真似で後に続き、バレないように奏悟に教えてもらう。
なんとか一人でも出来る内容でよかった。
その後、皆に混じってシュート練習をし、試合では極力気配を消してパスに徹して問題なく終わることが出来た。
先生はといえば、遊び始める男子を注意したり、見回りながらアドバイスをしたりと、見た目のチャラさからは想像出来ない真面目ぶりだった。いや、それが先生の仕事だから当たり前なのだけど。
途中、ぼっちすぎて不審者になりかけていた私に先生が気付いて、何度かチラ見してきたこともあったが、結局、声をかけてくることなく終わった。
再び女子生徒達に混じり着替えて教室へと戻る。帰りのホームルームが始まる頃には既に疲労困憊で机に突っ伏していた。
気力を振り絞って頭を上げて、先生の話を右から左へと流す。もう私に話を理解する力なんてない。早く帰りたい。
「よし、気を付けて帰れよ。号令!」
その一言を待ってましたと、終わった途端、野球帽を被った生徒達が競うように教室を飛び出して行った。
他の生徒達も部活へ行ったり、友人と帰ろうと楽しそうに話したりと賑やかになり、やがて教室からは私と奏悟しか居なくなった。因みに猛者達は昼休み以降、一切、奏悟に関わろうとはしなかった。彼と関わりのある私にも、特に話すことも見ることもなく教室から出ていった。
二人きりの教室は静かで、隣のクラスから男女の楽しそうな会話が聞こえてくる。奏悟はこちらへやってくると私の前の席に座った。
「疲れちゃった?」
「うん」
ぽけーっとしながら返事をする。
ああ、窓から見える夕陽が綺麗だ。流れる雲は薄らと桃色から淡い紺へと色を纏っていて、燃えるように広がる赤が徐々に暗闇へと呑み込まれていく。
夜が来る。
何故だろう。落ち着かない。