選択肢は三つ。
私が遊んでハマっていた乙女ゲーム『射干玉奇譚〜宵の乙女や照らせや照らせ〜』はベースは学園モノであるが、攻略対象の男性は皆、妖という和テイストを含ませたゲームである。
かつて闇夜を支配していた妖は時代が進むにつれ力を無くしていき、名もない妖は皆自然へと消えていった。現在ではかつて人々に恐怖を齎した力のある妖だけが人の世に交じり細々と生きているだけである。このままでは妖は滅んでしまう。そう危惧した大妖の一人が仲間を守る為にまだ庇護下にある幼い妖を一ヶ所に集める事にした。それがヒロインの通う浅緋学園である。
学園の半数以上は人であり、妖は少数である。ヒロインは言わずもがな人間で、妖なんて架空の存在だと考えてきたが、ある出来事を切っ掛けに妖の存在を知る事になる。それから攻略対象である妖の彼等と交流をし、人と妖、互いの理解を深め、時には喧嘩、時には青春、予期せぬ苦難を乗り越え、ライバルからの嫌がらせを躱し、やがて恋へと発展する。各所イベントはあるが、大まかな話の流れは他の乙女ゲームと大差ない。
洗面所を無事発見した私は、髪を整えて冷たい水で顔を洗った。
まずは状況整理だ。
昨日、いつものように寝て、起きたら知らない部屋にいた。そして、自分とは違う知らない少女に憑依していた。そしてここは乙女ゲームの世界。学校の名前も制服も、何より彼の名前と外見もゲーム内容と一致していた。
これは間違いない。だとすると、これから私のとる対応はどうしたらいいのか。
一、本当の事を話す。
二、黙って如月杏香として過ごす。
三、家を出て一人で何とかする。
……いや、三は無いわ。無謀すぎたわ。三は無し!
一は本当の事を話しても信じてくれる保証はないし、何より自分の身内が赤の他人だとわかれば向こうは気味悪がるし、本物の杏香を返せと怒ってくるだろう。
……本物の如月杏香はどうしたのだろうか。私の意識なのか魂なのかわからないが、私がいなくなれば彼女は戻ってくるのだろうか。それとも……。
いや、不確定な事に悩んでいても仕方ない。今は本物の杏香の事は置いておこう。一も駄目となると、必然的に二しかないが……。
正直、不安要素しかない。如月杏香がどうやって生活してきたか知らないし、何よりここは妖のいる世界。攻略対象の中に人の考えている事がわかる妖がいるのだ。
それが何を隠そう先程私に対して頭を撫でてきた男、佐藤奏悟である。