お昼ご飯を食べましょう。
無事に授業を乗り越えた私は力なく机に突っ伏した。
頑張った自分、えらい。
皆、昼休憩ということでわいわいと賑わっている。
購買に行こうと別クラスから誘いに来る人や、仲のいいグループで机を寄せ合って食べる人達の中、一人ぽつんとしている私。奏悟は授業が終わってすぐ教室を出ていった。勿論、猛者達もそれに続いていく。
まだ校舎の構造がわからない私は下手に移動しない方がいいだろう。仕方ない、ぼっちで食べるかと弁当を広げていると人影が視界の隅に入った。
「あれ……出て行ったんじゃ」
そこにいたのは奏悟だった。
彼は苦笑を浮かべた後、自身の持っていた弁当を掲げて一緒に食べようと言った。
「猛者達は?」
「猛者? 何の話?」
「奏悟の周りで必死になって気を引こうとしてた人達だよ」
「ああ……俺はただ歩き回っていただけだから、どうなったかは知らないなぁ」
白々しく嘯いて、爽やかな笑みの彼に、教室に残っていた女子達が喜びの悲鳴をあげた。
君達、笑顔にやられて喜んでいるけど、恐ろしいこと言っているからね? あと奏悟、絶対何かしたでしょう。
心の中で突っ込んでいると、奏悟は時間が無くなるからと急かしてきた。
「いやぁ、こんな人目のあるところで誘われるとなー」
言外に女子からの嫉妬対象になるからやめろと伝えると奏悟は目を瞬かせて首を傾げた。
あざといな、君。
「既に女子のいるところで誘って一緒に食べてるから問題ないよ」
いや、問題あるわ!
そう突っ込まなかった私えらい。
既にということは私が杏香の身体に入る前からという意味だ。杏香はそんな前から女子の嫉妬対象だったのか。そりゃあ塩対応にもなりますわ。誰も私に話しかけないのも頷きですわ。
思わず睨んでしまった私は悪くないと思う。
「大丈夫だって。杏香に害が及ばないようにするから。特に君は人のあしらい方を知らなさそうだし、簡単について行きそう」
私は幼児じゃないし、そういう問題じゃないんだよ。
奏悟は奏悟なりに心配してくれているようだが、彼は女子の陰湿さをわかっていない。
私は額を押さえて、はーっと溜息を吐く。視界の隅で奏悟が身を屈めたと思ったら、私の耳元近くに顔を寄せて囁いた。
「早く急いで。昼休みのうちによく使う教室とか教えるから。午後から体育もあるし、更衣室の場所も教える」
「!」
それならそうと早く言って!
吐息が耳朶に当たり、慌てて耳を押さえる。
いけない、私には刺激が強すぎる。
頬の熱の集まりと女子の騒めきを感じながら急いで弁当を持って教室を出た。とにかく今は人の視線の無いところに行きたい。
後ろから奏悟の来る気配を感じるからきっと迷子にはならないはずだ。




