反抗期な杏香ちゃん。
「こんな風に杏香と並んでテレビ見るなんて思わなかったわ」
「え?」
「さっきの奏悟くんとの距離でわかったと思うけど、うちの子、人が嫌いみたいでね。特に年上や同い年の男。私に対しては反抗期でたまに突っかかってくることもあるし。久々ねぇ、一緒にテレビ見るなんて」
「そうなんですか」
私は柚月さんの言葉に納得した。
普段からそんな態度を取っているのなら、今朝の私の反応にいつもの娘でないなと気付かないはずない。
それにしても杏香という子は随分と尖っているようだ。何か理由があるのだろうか。
「奏悟くんに関してはイケメンだから、嫌なんでしょうね。わからなくもないけど」
「わかっちゃうんですか」
「わかっちゃうわね……イケメンのそばに常にいるだけで嫉妬の的だから。厄介事を避ける為に奏悟くんを嫌ってたんでしょうけどね。嫌われてる本人は尽く無視して構うから余計に怒って大変よ。まぁ、特に顕著なのが人前で、身内しかいない時はそれ程でもないのだけど」
「あちゃー……」
なんとなく想像が出来る。
ゲームのシーンにも似たような出来事があったのだ。周りからの嫉妬の中、にっこり笑った奏悟がヒロインに構う場面だ。
手を繋いだり頭を撫でたり、彼にとっては普通の、特別な感情の無い触れ合いだが、周りの目には恋人がイチャついているようにしか見えない。
思考のわかる奏悟は、わかっても尚、己には関係ないと遮断する。
それは奏悟の意識の範囲内に自分と彼が大事だと思う身内しかいないからである。それ以外の人間は接触がない限り認知すらしないのだ。
ヒロインに実害があれば話は別だが、奏悟自ら行動を改めることはほぼない。
それは妖関係なく、奏悟個人としての性質なのだろう。
想像出来ちゃうなー。
きっと杏香が周りの目があるからやめてと言っても、やめるのは最初だけなんだろうなー。そりゃあ、嫌いになるわー。
出来ることなら私も嫉妬されるのは勘弁願いたい。しかし頼れる存在が奏悟しかいない今、嫉妬の対象になるのは確実だ。
嫌な未来を想像して思わず遠い目になってしまった。
「奏悟くんも悪い子ではないのよ……ただ周りに流されない強い意志のある子なのよ……」
柚月さんのフォローがなんとも言えない哀愁を漂わせていて、私は乾いた笑みを浮かべた。
「とにかく! 困ったことがあれば言ってちょうだい! 何なら奏悟くんのせいで起こる嫉妬のことでもいいわ!」
「あはは……」
さっきのフォローは何だったのと言いたくなる掌返しである。
柚月さんは勢いのまま、もう寝ましょうとテレビの電源を切った。