水を飲む、柚月さんと話す。
恋人を奪われた李紅はヒロインに対し陰湿な嫌がらせをし、人がいる前ではわざと大声で注意した。
結果的に言えば、李紅は不祥事を起こして転校となりその後の行方はわからず、ヒロインはめでたく奏悟とのハッピーエンドで終わる。
奏悟以外の攻略対象であればヒロインと李紅が深く関わることもない。彼女は奏悟ルートでしか登場しない悪役なのである。と、なると果たして奏悟の幼馴染枠である私も目を付けられるのだろうか。
そもそも李紅と奏悟は同級生、そして私も同級生。一つ年下のヒロインよりも彼女と出会う率が高いのでは。嫌な未来を想像して心が萎える。
生徒会かぁ……と、色々考えていると帰り道での奏悟との会話を思い出した。
彼は確か自分達のクラスは一年二組だと言った。ゲーム開始時のヒロインは高校二年生であり、一つ上の奏悟と李紅は三年生であった。
それはつまりまだゲームは開始されていないということである! 何故もっと早く気付かなかった!
もしかしたらここで李紅と仲良く、或いは奏悟とは恋愛関係がないとわかってもらえれば虐められないですむかもしれない。
まだ見ぬ学校生活に期待して、私は湯船から上がった。血流が良くなり真っ赤に染まった身体を拭いて、ささっと服を着て髪を乾かす。
リビングに戻ると柚月さんは居なかった。どこへ行ったのか、探しに行こうかと迷っているとタイミングよく柚月さんが戻ってきた。
開かれた扉によってふわりと線香の匂いが漂ってくる。確か父親は既に他界していると奏悟が言っていたから、きっと線香をあげてきたのだろう。
「あら、上がったのね」
「はい」
私に気付いた柚月さんは台所へ行くとコップに水を注いだ。
「喉渇いたでしょう。飲みなさい」
手渡されたコップをお礼を言って受け取る。
なんだか複雑そうな表情をする柚月さんに何かやらかしただろうかと不安になった。しかし特に言われることなく、飲み干したコップを回収していき、戻ってくる。
「寝る前に少しだけお話ししましょうか」
違った。これから言われるようだ。
何を言われるんだろうと、ビクビクしながらリビングのソファに腰掛ける。間を空けて隣に座った柚月さんがテレビをつけた。
どうやらこの時間帯は音楽番組をやっているようで、派手な髪色の青年が大きく手を振って歌っている。音量が小さくてどんな歌かわからないが人気の歌手らしい。
ぼんやりとテレビを見ていると柚月さんは不思議ねぇと呟いた。
思わず彼女を見ると、やはりなんとも言えない表情をしている。