始まる二学期。
頭を下げた一成は翁に向けてよろしくお願いしますと言った。
うむうむと頷いた翁はそっと近付いて一成の頭に皺くちゃな手を乗せる。そのままモゴモゴと口を動かしていた翁はやがてその手を離す。
するとキラキラした光が二人の周りに降り注いだ。
「これで縁は結ばれた。其方に手を出そうとする輩はいないだろう」
一成の無かった片目はいつの間にかあり、両目が揃った状態でいた。光と同じように一成の瞳が輝いてみえるが、きっと二人の間にしかわからない何かがあるのだろう。
小瑠璃は最初面白くなさそうに見ていたが、翁が離れるとトトトッとすぐさま一成の膝に飛び乗って、彼の鼻と自身の鼻を合わせた。
「!!」
一成は急なことに驚いて手を空に漂わせたまま固まっている。きっと小瑠璃を退かそうか迷っているのだろう。
その間に一仕事終えた小瑠璃はさっさと一成の膝から退いて、涼しい顔して此方に戻ってきた。
「幸福を呼び込む加護よ。感謝なさい!」
「え……うん……? ありがとう……?」
未だ状況を飲み込めない一成はとりあえずお礼を言う。
私は苦笑して見守るだけにした。
本当のことを言っても一成はきっと申し訳ないと気にするだけだ。ならば、何も言わずにいた方がいい。
これで少しは一成の生活費が増えればいいと願いつつ、私達は残りのお茶を楽しんだ。
問題はまだまだ山積みだけど、今はゆっくり何も考えず過ごしたい。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、その後の夏休みは何事もなくあっという間に終わりを告げ、中等部の一成より先に私と奏悟は早い二学期を迎えていた。
久々の教室、クラスメイト達の楽しげな声、懐かしい自分の机。
少しわくわくしながら鞄から荷物を出していると声を掛けられた。
「おはよう、杏香さん」
「李紅! おはよう!」
にっこりと笑う李紅に会えた喜びでテンションが上がる。
「そうだ、李紅にお土産があるんだよ」
「まぁ、お土産? 楽しみだわ」
うふふと上品に笑う李紅にちょっと待ってねと言い、鞄から綺麗にラッピングされた包みを取り出す。
「はい、これ。水族館に行ってきたんだ」
彼女に渡すと今ここで開けてもいいか聞かれたのでどうぞと答える。
ペリペリとシールを剥いで中身を取り出した李紅は感嘆の声をあげた。
「ペンギン! 可愛いですね!」
ころんと出てきたのはぬいぐるみのキーホルダーだ。
可愛い可愛いと喜ぶ李紅に実は……と私は自分の鞄を引き寄せる。
「色違いのやつ買って、私も付けてるんだ……李紅とお揃いにしたくて、えへへ」
照れ隠しに笑って言うと、李紅は更に嬉しそうに声をあげた。
「お揃いなんて! 私、嬉しいですわ!」
李紅は自分の机に一度戻り、鞄を取ってくる。
「私、誰かとお揃いなんてする事なかったので、とっても嬉しいわ! ありがとう!」
余程嬉しいのか、上機嫌な李紅はそのまま自分の鞄にキーホルダーを付けてみせた。
「ふふっ、これでお揃いね!」
「うん!」
初日からきゃっきゃっうふふな私達を奏悟が死んだ目で見ていたが無視した。
だって、久しぶりに李紅に会えたのだから、今は誰にも邪魔されたくなかった。