宝珠の疑問。
ざっくりとした説明だったが、奏悟は納得した様子で小さく頷いた。
「なるほどね。まさか氷華がライバルで登場するとは思わなかったな……ところで、攻略キャラにはそれぞれ問題を抱えてるって言ってたけど、俺はあるの?」
「それが……奏悟だけは無かったんだよね。見た目普通の男子高校生で、ただ他と違って彼女が既にいたんだ。その彼女って言うのが李紅なんだけど……」
実際の奏悟と李紅は同じクラスであるが、付き合っていない。
ゲームとは異なる点が出ているがそれによって今後どのような結果になるのかは未知数である。
傍から見ていてもわかるほど犬猿の二人がゲームでは付き合っていると知り、奏悟は驚いた後、嫌そうに顔を歪めた。
「俺の場合は氷華と付き合っているということが問題だな」
真面目な表情で言う彼は余程嫌なのだろう。
おそらく李紅もゲームという別世界で奏悟と恋人同士だったんだよと言えば、冷たい視線をこちらに向けて嫌悪感を顕にするはずだ。
ある意味似ている二人だから、同族嫌悪があるのだろう。
仕方ないと力無く笑みを返して、私は続けた。
「ただね、ちょっと気になっていることがあるんだ」
「何?」
「一成の父親の話を翁から聞いた時に、射干玉の宝珠のことを訊いてみたの」
「宝珠?」
「そう。宝珠は砕けてただの石になっても、次の乙女が覚醒すればまた姿を現す。だから、ゲームで登場した宝珠は射干玉の乙女として覚醒したヒロインのものだと思うのだけど……ヒロインって、人間なのよね。私みたいに半妖じゃない。特別な能力もない、純百パーセントの人間」
そこで私の言いたいことに気付いた奏悟が息を呑んだ。
「何故、人間が射干玉の乙女として覚醒するのか」
「そう。妖に繁栄を齎すのならそれを使う乙女は普通妖でしょう? 人間なんて、妖とは関係ないじゃない? まぁ、ゲームだから愛の力とか、裏設定とかあるのかもしれないけど……でも、もし、ヒロインが本当に純粋な人間なら覚醒しないと思うのよ。それとも、乙女って人間でもなれるの?」
再確認すれば奏悟は首を横に振った。
「いや、杏香の考えは正しいよ。宝珠を扱えるのは乙女として覚醒した妖だ」
その答えに私は間違っていなかったのだ安堵する。
「良かったぁ。ずっと気になっていたのよね。まぁ、だから何って話なんだけど」
元々、ゲームでは死人が出るような描写はなかった。
あえて挙げるとすれば、ヒロインに突っかかっていた李紅が転校してその後行方不明になることぐらいか。
しかし、その李紅は奏悟と付き合っていないし、犬猿の仲の二人ならこれからくっつくこともないだろう。よって、ヒロインと衝突することなく平和に過ごせる。
だから、仮にストーリー通りに進んでも問題はないはずだ。
射干玉の乙女が覚醒するかはわからないが。
「ゲームでは最後、ヒロインがその攻略ルートのキャラと一緒に宝珠を使って、妖に繁栄を齎して、好きな彼と結ばれて幸せになりましたってざっくりとした終わり方してたと思うのよね……もう、あまり思い出せないけど、私が知ってる内容はここまでだよ」