小瑠璃姐さんに話してみなさい。
小瑠璃曰く、今は深夜で、私が佐藤家に戻ってきたのは早朝の出来事だったらしい。
奏悟に抱えられて来た私はそのまま寝かされ、暫く奏悟と一成が付き添っていたようだ。
その後、一成が帰り、奏悟がここに残っていたようだ。しかし、あまりにも疲労の色が濃く、小瑠璃が寝るように促したのだという。
「どう? 体調は悪くないかしら?」
丸一日寝ていた私を心配して小瑠璃がふんふんと匂いを嗅ぎながら私の周りを一周する。
「ありがとう、大丈夫だよ」
目の前を通っていく背中に手を乗せる。柔らかな毛並みを堪能しつつ、感謝を込めて撫でると、もっとしてと押し付けてきた。
それを可愛いと思いながら、私はぽつりぽつりとこれまでのことを小瑠璃に話した。
この世界に来た時のこと、ヒロインのライバルとなる女の子と友人になったこと、その繋がりでお菓子が好きな女の子とも友人になったこと、バイト先で男の子とも仲良くなったこと、お忍びのアイドルに会って不穏な空気になったこと、杏香の声が聞こえたこと、夜の庭で不思議な男性に会ったこと、仲良くなった男の子とキスしてしまったこと、一成の父親に対する怒りが爆発してしまったこと、杏香の内側から初めて彼女がどういった子なのか知ったこと、自分が本当は死んでいたこと、やがて杏香の人格と混ざって私という人格が消えてしまうこと。
時系列など関係なしに、思うがままに話した。
尾をゆらゆらと揺らして大人しく聞いていた小瑠璃は話し終わると、ググッと身体を伸ばした。
「なるほどねぇ……中々に面白い体験をしているのねぇ、うちの下僕は」
「私として別に面白くないんだけど……」
「それで? 何を思って泣いていたのかしら?」
「……その、私、杏香の人格と混ざって、別の人格になるじゃない? それでこっちの世界で出来た友人達に今までと違うって敬遠されたりしないかなって……」
そう言うと小瑠璃は半眼になった。
「なぁに言ってんのよ。別の人格になるからと言って今までの性格とまるっきり違うなんてことは無いだろうし、それに性格が変わっただけで友人を辞めるのであれば結局はそれだけの関係だったってことよ。寧ろ居なくなって良いんじゃない?」
「そんなこと!」
「それに、その仲良くなった雄だって、会うのが気恥ずかしいのでしょう? 記憶が残るかはわからないけど、性格が変わればその雄のことも何とも思わず、普通に接することが出来るんじゃないかしら」
「……ッ! やめてよ! そんなこと言わないで!!」
声を荒げた私に小瑠璃はピッと毛を逆立てる。
暫くの沈黙の後、小瑠璃は小さな溜息を吐いた。
「話を聞く限り、杏香はその友人達が好きなのね……雄の方も」
「…………」
「しかも雄の方は異性として好きと見た」
小瑠璃の言葉に私は慌てた。
「なっ、そんな訳ないじゃない!」
「なぁに言ってんのよぅ。もしや下僕、気付いてないのかしら……ああ、これは私しかわからないのね」
「な、なんなの、さっきから」
小瑠璃は私を見るとにんまりと笑った。
「今の下僕の身体からはね、雌の発情した匂いがしているのよ」
「!!??」