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父と息子の再会。


 私は壁を背に、足の間に彼の片足が割り込んで逃げられないようにされる。片手で胸を弄られ、もう片方の手は私の両手を押さえ込んできた。

 

 まずい。

 せめて片手だけでも使えないと札は貼れない。


 「ま、待って」

 「待てない。誘ったのは君だろう」

 胸元に顔を埋められ、生温かい感触が這っていく。

 あまりの気持ち悪さに肌が粟立った。先程まで胸を弄っていた手が尻を撫で、下着の中に入っていく。


 き、気持ち悪いッ!!


 そう心の中で叫んだ時、鞄が勝手に開いて、眩い光を放った。

 「なっ、なんだ!?」

 あまりの眩しさに掴まれていた手が離れる。


 今だッ!!


 こんな気持ち悪い体験はよ終われと私は急いで鞄の外ポケットに忍ばせていた札を彼の腹に貼った。

 「うわっ!?」

 突然の行動に驚くが既に翁の術は発動している。

 彼の身体が歪んだと思ったら吸い込まれるように消えてしまった。

 「…………はーっ」

 私は乱れた服を整え、舐められたところを念入りに拭いてから、自分用の札を取る為に鞄の中を覗いた。

 すると、鞄の中では奏悟から貰った呪具が淡い光を放っていた。先程の閃光はきっとこれだろう。

 「奏悟……」

 守られていると考えたら少しだけ涙が滲む。慌ててそれを拭って、私は自身に札を貼った。


 ……あの野郎……マジで気持ち悪かったわ。


 そんなことを思いながら歪む景色に引っ張られる感覚を体験しつつ、私も異空間へと渡った。



 異空間は不気味だった。

 空中に浮いていた身体は真っ暗闇の中を落ちていくのだが、その暗闇の中、無数の大きな目が私を見てくるのだ。

 充血した目、涙ぐんでいる目、白く濁った目、どれもこれもが落ちる私を追って見てくる。


 彼等にも喜怒哀楽があるのね。


 杏香の声が聞こえる。彼女はあの目が何か知っているのだろうか。私にとってはホラーでしかないのだけれど。

 そんなことを思いながら、私は見えない底まで落ちた。と、思ったら急に視界は明るくなり、思わず目を瞑った。

 ふわりと身体が上がる感覚がして、そっと固い地面に下ろされる。

 視界が明かりに慣れて、ゆっくりと瞼を開けると、そこは翁と初めて出会った場所だった。

 ゴツゴツとした岩肌の、真下に雲が流れる高い山の上だ。

 「おお、無事来られたか。良かった良かった」

 翁ののんびりとした声が聞こえて、振り返ると既に翁と奏悟、一成が待機していた。

 一成の父親は一足早く行ったので、不機嫌そうに彼等の近くに立っていた。翁の領域にいるから抵抗は出来ないようで大人しくしている。

 場は整った。

 私は奏悟の近くへと行き、彼と対峙した。

 私の顔を見ると彼は盛大に顔を歪めた。

 「チッ、油断したか」

 先程の不快感と怒りが込み上げてきて、一言言ってやろうかと前に出たら、先に小さな影が飛び出して、勢いよく彼の股間を蹴り上げた。

 「!?」

 全員が驚く中、股間を蹴り上げた人物は叫んで、再び足を素早く上げた。

 「母さんと婆ちゃんの分!」

 「うぐぅ!?」

 父親が息子に股間を蹴られて蹲る。そして、一成は股間を押さえている父親の手の上から三度目の蹴り、ではなく、飛んで全体重を掛けて踏み込んだ。

 「これは……」

 「あうーッ!?」

 幾ら手でガードしていても中学生男子の体重は防げなかったようだ。

 「……俺の分だ!!」

 飛び降りた一成が怒りを顕にそう告げる。

 よくやった一成と私が拍手を送っている中、横にいた男性陣は痛そうに顔を歪めて内股になっていた。

 

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