飼い猫の怒り再び。
翌日、自分もついて行くとゴネる小瑠璃も連れて、三人と一匹で翁の住む山の麓まで来た。
私の影から香白を呼ぶとするりと白い体躯が出てくる。昨日のうちに香白に頼んで翁へ手紙を届けさせたので、迎えの送り犬も来てくれていた。
香白ともう一匹の子の背中にそれぞれが跨る。
ビュンビュンと風を切って、鳥居を潜り抜ければ既に翁が待っていた。
「よく来た。さて中に入って茶を飲もう」
靴を脱いで室内へと入ると人数分のお茶とお菓子が用意されている。よく見ると可愛い肉球の絵柄のお皿もある。中身は白い液体……きっとミルクだろう。小瑠璃の分も用意してくれたのだ。
それに気付いた当猫は鼻を鳴らしてニャゴニャゴと文句を言った。
「アンタ、ミルクって。もうちょっと気の利いたもん用意出来ないわけ?」
「こらっ、コーリ! 折角出してもらったのになんてこと言うの!」
飼い主として怒るが小瑠璃は全く反省していない。
翁はいいのじゃと笑って許してくれた。
「もう……すみません」
「良い良い」
それぞれが座り、本題に入る前にと私は持っていた手提げから箱を取り出した。水族館で買ったお土産のお菓子だ。
「あの、これ良かったらどうぞ。水族館に行ってきて、そのお土産です」
「おお、すまんのぅ。ほうほう、ちょこれいとを使った、ぱいというお菓子……知っておるぞい。南蛮の菓子じゃな?」
翁にお土産を渡すと彼は嬉しそうに箱を撫でていた。いつも用意してくれるお菓子も美味しいし、もしかしたらと思って選んでみたが喜んで貰えて良かった。
「ちょっと! 下僕!! 私のお土産は忘れて、この男にはちゃんと覚えてるってどういうことよ!!」
「悪かったって。お詫びのおやつあげたじゃん……」
……良くなかったのが一匹。
怒り狂う小瑠璃を宥めつつ、私達は早速本題へと入った。
「……なるほどのぅ。天馬という会社に彼奴は居るのか」
話を聞き終わった翁はお茶を啜り、ふぅむと考え込んだ。
「居場所はわかったのですが、どうやって接触するか悩んでいて……」
きっとストレートに行っても警戒されて終わりだろう。何か良い案はないかと翁に再度訊くと彼は「あるぞい」と答えた。
「わしの力が満ちる異空間に彼奴を閉じ込めることが出来れば、幾ら相手が暴れようと逃げることは出来ぬ。ただし……異空間に連れ込むのがのぅ」
「難しいのですか」
奏悟が恐る恐る訊く。翁は自身の懐を探ると一枚の紙札を取り出した。
「この札なんじゃがな。これを相手の身体のどこでもいいから貼ると異空間に連れ込むことが出来るのじゃ」
なんでも、お札が力の起点となって、貼られたものを瞬時に異空間に引っ張るのだそう。
貼ってしまえば此方のもんだが、警戒心の強い一成の父親では近付くことさえ難しいだろうと翁は言った。




