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マウントをとってくるのは当たり前。


 「無理しなくていいんだぞ」

 前を歩く親子に気付かれないように、陸がそっと耳打ちしてくる。彼のその表情は心配でいっぱいという感じだ。

 私はそれが何だか可笑しくてふっと息を漏らした。

 「大丈夫。今の私、とても楽しいの」

 「え?」

 「あ、でも、私が暴走しそうになったら止めてね?」

 戸惑う陸を置いて私は行く。

 彼に言った通り、今の私はとても気分がいいのだ。

 どろどろと溢れ出る感情に私の中の杏香が喜んでいるような気がする。


 私に身を任せてもいいのよ。


 聞こえる訳ないのに、杏香の声が聞こえる。私は口元に笑みを浮かべて、大丈夫と応えた。


 レストランでは好きな物を頼んでいいと言うので、陸も私もパスタを頼んだ。チーズの香りとクリームのまろやかさが麺と絡んでとても美味しい。

 半分ほど食べ終わった頃、愛奈がそう言えばと口を開いた。

 「陸さま、今度我が家でちょっとしたパーティーをするのです。ぜひ、いらしてください。この間の様にまたダンスのお相手になって? 一緒に踊りましょう?」

 流石、社長の子というべきか。庶民には馴染みの無いお誘いである。しかも口ぶりから察するに頻繁にあるようだ。

 陸の顔を一瞥すると、彼は緩やかに口元を上げて微笑んでいた。しかし目は笑っていない。完全に脈無しである。

 それでも愛奈は気にせず彼に笑いかける。

 あの時出たパーティーの料理が美味しかったとか、あんなハプニングがあって面白かったとか。どこそこの御令嬢が某有名企業の孫と婚約しただとか。そこの役員が会社の金を横領しているだとか。

 本当なのか冗談なのか。

 愛奈の真っ赤な唇からつらつらと言葉が流れてくる。もしこれが本当ならば、彼女はとても役に立つ情報源となるだろう。

 女の魅力は美しいだけでは成り立たない。

 スッと細められた垂れ目が愉悦を滲ませて私を見る。

 「あらあら、私だけが喋っていては、いけないわね。ねぇ、貴女の話も聞かせてくれる?」

 「私、ですか」

 「ええ。陸さまとお知り合いになられた経緯、とか。世界の大企業と肩を並べられる白銀家の御子息ですもの。さぞ素敵な出会いだったのでしょう」

 愛奈はキラキラと輝いた表情で見てくる。しかし、同性である私にはわかる。彼女は私の身分を知っていてそんなことを言うのだ。

 全ては自分が上だとわからせる為のマウント行為だ。

 彼女の父親はそんな娘をニコニコと見守るだけで止めようともしない。

 私は静かに瞼を伏せて答えた。

 「いいえ。期待されるような話は何も。私はただ白銀家で働いていたところを陸さんに見初められたので……」

 「まぁ! 私よりも歳下に見えるのですが、もう働いて? 余程、困窮していらっしゃるのねぇ……陸さまはお優しいからきっと『勘違い』なさっているのね」

 その言葉にぴくりと陸が反応した。

 「……失礼。俺が勘違いしてると?」

 「ええ、そうですわ。陸さまが彼女に向けるその想いは愛玩動物に向けるものと一緒ですわ。可哀想だから保護しなければならない。そんな思いが恋愛感情とごちゃ混ぜになっているのです」


 何を言い出すかと思えば。


 失礼極まりない発言に陸は顔を顰める。

 流石に父親も止めるかと思えば、本当のことを言ってはいけないよと笑っているだけだった。

 

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