魅惑のもふもふ!
暗闇の中、一筋の月明かりに白い体躯が照らされる。どっしりとした前脚は普通の犬よりも太く、ハッハッと舌を出して呼吸している。まるで笑っているような顔だが、シュッとした鼻筋は狼を彷彿とさせた。こちらを見詰める瞳はやや陰りのある碧色である。
一言で言うならば格好良い! そしてもふもふ最高! である。
「もふもふ……!」
少し離れたところから眺めて、敵意は無いと示す。どこかの情報で目を合わせるのはあまり良くないとあったから、視線を外してチラチラとだけ見る。
じっと待っていると犬はふさふさの尾を揺らし始めた。どうやらこちらに興味を持ったようだ。
「優しく撫でてあげれば噛まないから、行ってみなよ」
奏悟に促されて、ゆっくりと刺激しないように前に出ると、向こうから歩み寄ってきた。ゆるりゆるりと尾を揺らして、顔を近付ける。匂いを嗅いでもらうように手を差し出すと、湿った鼻が押し付けられた。鼻息がかかってくすぐったい。我慢して耐えると、犬は満足したらしくその場に座って見上げてきた。
「どうやら受け入れられたようだね」
「よかった……」
「撫でてあげなよ」
ほっと胸を撫で下ろすと、ほらほらと奏悟が再び促してくる。腰ぐらいある大型犬相手に若干の恐怖心が募るが、犬はそんな事知らずにつぶらな瞳で見詰めてくる。
そんな可愛い顔で見詰めてきて……!
ええいと勇気を出して頭に手を置いてみた。
「ふぁ……!」
なんという肌触りだろうか。硬いと思っていた毛は柔らかく、毛玉もなく指通りも良い。
もふもふ。
想像以上にもっふもふ。
ずっと触っていたい感触である。犬の方も気持ち良さそうに次はここを撫でて、その次はこっちと身体をくねらせている。
わっしゃわっしゃ、もふっもふっ、しゅっしゅっと無心で撫でていると、無情な声がかかった。
「挨拶も済んだし、降りようか」
「そんなぁ……」
もふもふぅと名残惜しく最後の撫でをする。犬も、もう終わりなのとしょんぼり顔である。
「そんな顔しないで。ほら、この子に跨って。山犬の子、彼女を頼むよ」
奏悟に言われた犬は任せろとばかりに、私の足の間に頭を潜らせるとグッと持ち上げた。
「うわわっ」
弾みで身体が後ろに下がり、気付くと犬の背に跨っている状態でいた。
「よし、しっかり捕まって、上半身はなるべく倒してね。枝にぶつかるから」
言われるがまま犬の首を絞めないように抱き込むと、急に後ろに引っ張られる感覚が襲った。
「うっ!」
違う。後ろではなく、前に進んでいるのだ。
タンッタンッと岩の上を飛び跳ね、不安定な山道を駆けて行く。あんなにも苦労して登った道を軽々と降りて行く。息が詰まる中、奏悟は、と視線だけを彷徨わせるが、姿が見えない。しかし、後方から同じような軽快な音がして私の後に続いている。
まさか、彼も同じように跳んだりしながら走っているのだろうか。