夢出逢う。
伸びた草は刈り込まれたのだろう。短くなった芝が月明かりを受けて輝いているように見える。
今日は雲が少ないからあたり一面よく見えた。
ここに来ると不思議と心が落ち着く。まるで護られているような安心感があるのだ。
暫くボケーっと眺めていると徐々に眠気が押し寄せてくる。
そろそろ部屋に戻って寝ようかなと考えているとふらっと視界が傾く。
あれ、これヤバいのではと思った時には私の視界は眩い月明かりが広がっていた。
「……あれ」
頬を撫でる感覚がして、私はふと目が覚める。床の冷たさに手で触って確かめているとどうやら廊下で寝ていたようだ。
寝ていたという表現が正しいのかわからないが、起き上がると先程の庭の前のままでいた。
ぽやんぽやんする思考の中、部屋に戻らなければと立ち上がろうと力を込めるが足に力が入らない。
「……んん」
どうしたんだと自分の足を摩っていると何処かから鈴の音が聞こえてきた。
チリン、チリン。
カラン、カラン。
ああ、この音を知っている。
いつの間にか閉じていた瞳を頑張って押し上げて庭を見る。
月明かりに照らされてそこに立っていたのは狩衣を着て雑面で顔を隠した男性である。そう、私に何かを伝えようとして結局わからずに終わった人だ。
この人がいるということはきっと私はあの夢の続きを見ているのだろう。
目の前の男性は首を傾げてこちらを見ている。面で表情がわからないはずなのに、今の彼がどんな顔をしているのか手にとるようにわかる。
きっと夢だからだ。
彼が不思議そうな表情でじぃっと私の身体の中にあるものを見ている。
そんなに見ないでくすぐったいわ。
「ふふ」
とろけた思考で制御できるわけもなく、笑みが溢れて手を男性へと伸ばす。
「ねぇ、抱き締めて」
普段の状態であればそんなこと言わないのに、するりと出た言葉は甘ったるさを含んでいた。
強請るように伸ばす手に、男性は緩く首を振るとトントンと己の胸を指差した。
何を示しているかわからないが、私を抱き締めてはくれないようだ。
「……酷いわぁ」
ふえぇんと瞳を潤ませてわざと男性を困らせる。手を振り、おろおろする男性を見て私は満足した。
「ふふっ、引っ掛かったぁ」
涙を拭いて笑ってみせると男性は怒ることなく寧ろ安堵した様子で胸を撫で下ろしていた。
「ねぇ、私のなにを見ていたの」
そう問えば男性は身振り手振りで教えてくれるが、何を示しているのかさっぱりだ。
夢だと言うのに彼の声は聞こえないらしい。いや、声が出ないのかもしれない。どちらでもいいが。
私に伝わっていないと判断した男性は暫く腕を組んで悩む素振りをしていたが、手をひょいと動かして、私に男性のもとへ来るように促した。
そういえば彼との距離は離れたままだ。
庭の中央から廊下までそれなりに距離があり、今までよく疑問に思わなかったなと思う。これも夢だからだろうか。
力の入らなかった足に、よいしょと力を込めれば今度は動かすことが出来た。