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不審者に声をかけられた!


 私は改めて男性を見た。

 私より頭一つ分背の高い男性はマスクをしていて丸眼鏡を掛けている。ダボダボの服を着て、帽子を被ったその頭は所々毛先が跳ねて、鮮やかな色が陽に照らされて輝いていた。

 うーん、どう見ても不審者。

 不審者だが、相手は私達から一定の距離を取っていて、向こうから近付いてくる様子はなかった。

 本当に道を知りたいだけなのかと対応に悩んでいると、近くを通っていた同じ年頃の女の子二人組が小さな叫び声を上げながら此方を指差していた。いや、よく見ると不審者の方を指している。やはり不審者だから悲鳴を上げられているのかと思っていると、女の子二人組は嬉しそうに興奮した様子で此方にやってきた。

 え、なんで?

 「あの! もしかしてアイドルの不破ハクヤ君ですか!?」

 「やっぱりハク君だ! え!? なんでこんな所にいるの!? 撮影!?」

 「きゃー! ヤバいヤバい!」

 私と一成を置いて、女子二人は大盛り上がりである。

 どうもこの不審者はアイドルらしい。芸能人に疎い一成と私じゃ見抜けなかったみたいだ。

 アイドルであるならばこの不審者スタイルも……まぁ、納得である。

 不審者基アイドルの不破ハクヤは困った様子で彼女達の相手をした。

 「ごめんね、今、私用で来てるから」

 言外にこれ以上絡んでくるなと伝えるも、興奮した彼女達には届かなかったようで、なおもアイドルに詰め寄っていた。

 「会えるなんてすごーい! あの、一緒に写真撮ってもらってもいいですか!」

 「握手してください!」

 「ああっ! 凄い、夢みたい!!」

 「…………」

 当の本人なんてお構いなく彼女達は自分達の欲望を次々に出していく。

 蚊帳の外へと出された私はそのまま帰ればいいのだが、彼がどう対応するのか気になって見ていた。

 キャッキャする女子に対しアイドルは静かにマスクを外した。その顔には何となく見覚えがあった。

 「そういえば、貴女達は駅近くにあるカラオケに行く予定でしたよね。行かなくていいんですか」

 爽やかな笑みでアイドルがそう言うと、先程まで興奮していた彼女達は急に大人しくなり「そうだった。行かなきゃ」と呟いてふらっと行ってしまった。あまりのことに私は呆然と彼女達の背中を見詰めた。

 あれ程騒いでいたと言うのにどうしてしまったのか。いや、原因は一つしかない。

 このアイドルが何かしたのだ。

 思わずアイドルを見ると視線が合ってしまった。丸眼鏡の奥で綺麗な琥珀の瞳が爛々と輝いている。その瞬間、ぶわりと感じた肌を刺す空気に思わず半歩身体を引いた。

 「お騒がせしてすみません。それで……ええと、浅緋学園の教職員用の住宅ってどこかわかりますか。道に迷っちゃって」

 異様な雰囲気に言葉が出ないでいると隣にいた一成が私の前に出てきた。

 「幾らアイドルでも目的を訊かないで教えるわけにはいかねぇ。何の用があって行くんだ」

 険を滲ませる一成に対し、アイドルはにこやかに応えた。

 「俺の兄貴がそこの教員でね。松本クウヤっていうんだけど知ってる? 君達、浅緋学園の生徒でしょ?」

 あ、苗字の不破は芸名だからねと、そのアイドルは丁寧な話し方をやめて、気さくに笑った。

 

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