ゆるゆる〜な試合。
後から眞紘も運よく卓球チームに入ることが出来たとわかり、ぼっちとなった李紅が荒れに荒れた数日後。
本日は球技大会である。
流石に体育教師だけでは手が回らない為、他の教師達も運動部所属の生徒達に混じって会場準備をしている。そしてスペース問題の為、卓球だけは体育館の二階部分である空きスペースで行われることとなった。
球技大会開催の挨拶が終わればそれぞれの場所に生徒達は向かう。絶対に優勝すると自棄気味に意気込む李紅と別れ、私は奏悟と途中から合流した眞紘と一緒に二階へと上がった。
「クラス対抗だけど、卓球は和気藹々って感じで楽でいいよね〜」
「卓球部の連中はそうじゃないっぽいけどね」
「ほぼ個人戦みたいなものだから遊んでてもおっけぇおっけぇ〜。杏香ちゃん、終わったら李紅さまの応援にいこぉ」
「いいよー」
「神崎、俺は誘わないのか?」
「ええ〜。佐藤は勝手についてくるでしょぉ?」
「まぁね」
「なんで訊いてきたし!」
「まぁまぁ」
頬を膨らませて怒りを露わにする眞紘を宥める。そんな意味のない遣り取りをしながら他のグループの試合が終わるのを待った。
「はーい、Aグループの試合は終わりねー! 次のグループ来てー!」
体育教師に代わって世界史と古典の教師が進行を務めていく。
古典教師といえば温和で一部の女子から人気の浜浦先生である。そしてその正体は妖の牛鬼だ。
そのことを知っているのは一部のものであるが、今は球技大会、ただの学園のイベントでそのことを気にする必要はないだろう。
「じゃあ、私、次だから。行ってくるね」
「あ、俺も」
「いってらっしゃ〜い」
眞紘に見送られ、奏悟と共にクラスの輪に集まる。私のクラスに卓球部はいなかったようで、誰も優勝を目指すと言うよりは雑談し雰囲気を楽しんでいるようだった。
「へぇ、ダブルスはまた別のグループなんだ」
試合の予定表を見ながら奏悟がそんなことを言う。
「俺等は個人戦だね」
「おおー。ダブルスで足引っ張るよりは個人で負けた方が気が楽だね」
「負けるんだ」
「ちょっと苦手……」
うへぇと顔を顰めると奏悟は苦笑した。
そうして始まった試合はテンポ良く進み、奏悟はあと一ポイントというところで負けてしまった。あちゃーとにこやかに笑っていたので多分わざと負けたのだと思う。
私の番では相手が運動部だったようで圧倒的点数差で相手側が勝った。応援側から「仇は任せてぇー!」という声が聞こえたので振り向いたら笑顔の眞紘が手を振りながらこちらに向かって叫んでいた。
いや、私は別に望んでないので、そんな滅茶苦茶良い笑顔で相手側を睨むという器用なことをしないでください。
「杏香ちゃんをいじめる奴はぼっこぼこ〜!」
順調に勝ち進んだ相手さんは、次のグループだった眞紘と当たり、見事惨敗していた。いぇーいとピースサインをしていた眞紘は次の試合でわざと負けて教師から注意されていたが、終始にこにこである。
これには教師二人も溜息を吐くしかなかった。