ご褒美のケーキ!
眞紘と合流して、三人で駅前のケーキ屋へと向かった。
店内は狭いが何組か机と椅子がセットで設置してあり、飲食することも可能のようだった。眞紘曰く、基本はお持ち帰りがメインだが、主婦や女子高生がちょっとしたお喋りに利用して飲食して帰るらしい。追加料金で飲み物も注文出来るので中々の人気なのだそうだ。
ショーケースを見ると色々な種類のケーキがキラキラと輝き並んでいる。どれを見ても美味しそうで困る。
「あ、これこれ。これです、李紅さまぁ」
眞紘が指差して李紅を呼ぶ。一緒になって彼女の指差す物を見るとそれは見事なホールケーキだった。
艶めく濃い赤、鮮やかな緑、蕩けるような橙、ぎゅっと詰め込められた深い紺、瑞々しく輝く薄紅。ひしめき合うように色とりどりのフルーツが純白のクリームの上に盛られている。
確かにこれだけ盛られていればお値段も高い。しかし、値段よりも李紅は別のことを心配した。
「新作スイーツが出ているのは知っていたけれど、まさかホールだとは思わなかったわ。眞紘はともかく、私と杏香じゃ食べきれないわね」
「ええ〜、眞紘は全部食べたいですぅ」
むくれる眞紘を見て、李紅は困った顔をする。
「そうね……食べ切れなかったらお持ち帰り出来るか店員さんに聞いて見ましょうか」
そう言うと早速店員を呼んで質問していた。何度かやりとりをした後、そのままケーキを注文する。財布を取り出して支払うと李紅がこちらに戻ってきた。
「店員さんに聞いたら切り分けてもらえるようだったから、お願いしたわ。眞紘の分はホールにしといたから」
「やったぁ! 李紅さま、ありがとぉ!」
眞紘が両手を上げて喜ぶ。
「さ、席について待ちましょ。飲み物を何にするか決めておかなきゃ」
そう言って李紅が私と眞紘の背中を押して、席に座らせる。
「ありがとう、李紅」
改めてお礼を言うと李紅は手を振った。
「私が勝手に奢るって決めたことだからいいのよ。ここは全て私が払ったわ。もちろん、飲み物代もね」
「ひゅー、李紅さま、かーっこいい〜」
眞紘が囃し立て、満更でもない様子で李紅がやめなさいと押さえる。
放課後、仲の良い女子できゃっきゃっする行為が何だか眩しくて、楽しくて、とても愛おしく思える。これが青春かなと思いつつ、私も「李紅さま、素敵! 大好き!」と眞紘と一緒になって李紅に好き好きと言って笑い続けた。
そうしている間に飲み物の注文を取りに来た店員に注文して、ケーキと飲み物がやってくる。輝くケーキを前に眞紘は感嘆の声を上げた。
「はぅあ〜、綺麗ですぅ……」
「ふふ、いただきましょうか」
「そうだね」
瞳を輝かせてケーキを見詰める眞紘をそっとして、先に私と李紅がいただく。クリームの滑らかな甘さとフルーツの酸味がとても合い、幾ら食べても飽きない美味しさだ。
「んん〜、美味しいぃ」
金欠もあるが、体型維持の為に甘いものを控えていた私にとって身に沁みる甘さだった。身体の全細胞がこの甘さを求めていたと言ってもいい。
余りの美味しさに震えていると、その様子を見ていた李紅がくすくすと笑っていた。
「そんなに喜んでいただけたのなら、奢った甲斐があったというものですわ」
「えへへ……」
「よし、私も食べる!」
視覚で堪能していた眞紘がついにフォークを手に取る。丁寧に切り取っって口に運んだ眞紘は言わずもがな満面の笑みで「美味しい〜!」と喜んだ。