私は『きょうか』というらしい。
目を覚ますと見知らぬ天井が飛び込んできた。
ここはどこだろう。
暫く瞬きを繰り返してから勢いよく起き上がる。ぼぅっとする鈍い思考の中、辺りを見渡した。
「私の部屋じゃない……」
私の住んでいた部屋はもっとシンプルだったはずだ。花柄の壁紙とか勉強机とか無かったし、壁際のハンガーに制服なんてかけていない。と、いうより、ちょっと待って、あの制服見たことあるような。
待て待て? 寝る前の私って何してたっけ? そう、確か、いつも通り学校から帰って宿題してご飯食べてお風呂に入ってサイト巡りして……。うん、そう。最近ハマっている乙女ゲームの二次創作小説サイトを読み漁って寝落ちしたんだ。それで、起きたら知らない部屋って……友人がよく興奮して話してた所謂夢小説の導入みたいな……。
まさか、まさかね…?
少し怖くなって、私はそっとベッドから降りて鏡を探した。トリップものの小説ってヒロインとなる人物の姿形がトリップする前と変わって別人になっている場合があるから、まさかそんなことはないだろうけど、念のためね。うん、念のため。
机の上に手鏡が丁度置いてある。無意識に唾を飲み込むと、私は覚悟を決めて手に取った。
「!!」
鏡に映った私は私じゃなかった。
「誰これ……」
衝撃だった。だって何一つ違うんだもの。私は元々二重じゃなかったし、髪だって艶々じゃなかった。ぷるぷるの唇やすべっすべの肌なんて程遠い。誰だこの美少女。完全に私じゃないよ。
「まじかー……」
えーと、こういう時ってどうしたら良いのだろう。教えてくれー友よー!
若干現実逃避していたら扉を叩く音がした。
「杏香? 入るわよー?」
「!?」
返事をする暇も無く扉は開かれた。
「あら、ちゃんと起きてるじゃない。早くしないと奏悟くん来ちゃうわよ」
「えっと……あの」
私の頭の中はパニック状態だった。とりあえず私の、いや、この身体の持ち主が『きょうか』ということはわかった。きっとこの子の母親なのだろうけど、美人なお姉さんを前に私はしどろもどろになるしかなかった。
「何してるの? ほら、学校行く準備する!」
美人なお姉さんに促されて私は「はい!」と元気よく返事をしてしまった。なんかちょっと恥ずかしい。
「おかしな子ね。誕生日だから浮かれているのかしら」
お姉さんは首を傾げながら去っていく。私はすぐさま机の上や引出しを漁って何か手掛かりがないか必死になって探した。