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2 皆江三奈

 私は恋というものが、あまりよく分からない。

  

 ただ、『好き』ということだけは感覚的に分かる。


『んがぁー今日もガチャ爆死しやがった! ムカつく……』


『ナミ最近課金しすぎじゃねーか? どっからその金湧いてくるんだよ』


『アルバイト……だよ。大学生なんだから、そんくらいしてる』


『ふぅーん』


『興味持てよ!』


『無理』


『あぁ⁈』


 チャットでメッセージを交わす。

 相手は私のネッ友、サクマ。


 私がゲームというものに触れたときから交友関係があり、付き合いが長い。


『そういえば、キスできたか?』


 ……ほんとに生意気。


『……オレの中ではキスした。これガチ』


『なるほどこれはしてないなオケ』


『このクソガキがッ!』


 高速タイピングで悪口を書き込む。

 始めた当初は三文字打つのに一分かかったのに、今では目にもとまらぬ速さで打ち込めるようになっていた。


 ちなみに、「クソガキがッ!」は予測変換で一瞬で出るようになっている。


『まぁでも、しようとはしたんだろ?』


『……うん』


『じゃあ一応、進歩はしてるんだな』


『…………うん』


『なら、落ち込む必要はねぇーよ。人間急に何かができるようになるわけじゃねぇんだから。初めは小さな一歩から、だ』


 たまにサクマは、こうやって説得力のある言葉をくれる。

 私はこの言葉に、何度救われたことか……でも、


『……年下のくせに生意気』


『ってオイ!』


『でもありがと。サクマでもいいこと言えるんだね』


『そういうときはありがとうの一言でいいんだよクソニート』


『あぁ?』


『フッ』


 その言葉に添えて、全国上位ランカーだけが持つことを許された最上級の煽りスタンプを送ってくるサクマ。

 私は持ってないし、凄くムカつく。


『突然だが、お子様高校生のサクマ君に報告がある』


『色々とツッコみたいところはあるけど、とりあえずなんだ?』



『私、明日告白する』



 あとから一人称がオレから私に変わってしまったことに気がついたが、時すでに遅し。

 私は諦めて、サクマの返信を待つ。


『……焦らなくてもいいって言ったろ?』


『焦ってない。オレは明日、告白したい』


『……そうか。分かった。応援する』


『ん、ありがと』

 

『んじゃばいさら』


『んー』


 今日は珍しく、日をまたがずに終わった。

 これ以上話すことはなかったから、当然と言えば当然だが。


「……よしっ」


 私はそう呟いて、終わりの見えない夜を迎える。

 

 その始まりとして、私はもう一人のメンバーにメッセージを飛ばした。




   ***




「おはよ、佐久馬」


「おはよ、三奈」


「今日も眠そう。遅くまでゲーム?」


「……まぁそんなところだ。お前こそ、眠そうだな」


「可愛い動物の動画見てたら朝になってた」


「ファンシーな朝の迎え方だなおい」


 そんないつもの小話をして、私たちは学校へと向かった。

 最寄駅からおよそニ十分、電車に揺られればあっという間に高校に着く。


 本当にあっという間で、もう少し遠くの学校でもよかったかもしれないと思い始めている。

 理由は……秘密。


「佐久馬、表情硬い」


「……いつものことだろ」


「ん」


 佐久馬がそう言うなら、きっとそうに違いない。

 でももう少し笑った顔を見てみたいと思った。


「…………にぃ」


「…………なんだその顔」


「すまいる」


「ばーか」


 佐久馬からデコピンを食らった。

 相変わらず躊躇がない。いたい。


 私こう見えて、女の子なんだけどな……



   ***




 その後、授業は私が寝ている間に次々と終わり……

 体感三十分で、放課後になった。


 私は昨日の夜のことを思い出しながら、席を立つ。


「佐久馬、中庭」


「お、おう」


 珍しく動揺する佐久馬。

 それもそうか。


「早く行こ」


 私は先陣を切って、教室を出る。

 さながら戦場の先頭を行く大将のような気分だった。


「三奈」


「ん?」


「鞄」


「はっ」


 …………。


 どうやら動揺しているのは、私も同じらしい。





 ——情報通り、いつもなら放課後でもたくさんの人で賑わう中庭が今や人一人としていない。

 さすがは『イザナミ』だなぁと感心しつつ、花壇をぼーっと眺める佐久馬の正面に立つ。


「えぇー……この度は、お越しくださいまして誠に——」


「急になんだよ。ここはテーマパークか」


「なわけないじゃん」


「だよなぁ?」


 ったく、佐久馬はいちいち突っかかってくる。

 でもこれ以上深追いする感じはないので、私から本題に移った。


「佐久馬」


「……」


 ごくりと佐久馬が喉を鳴らす。

 何やら佐久馬は、落ち着かない様子だ。


「……緊張してる?」


「き、緊張してねぇわ」


「うそ」


「嘘じゃねーよ」


「……うそ」


「ゴリ押すな」


 マズイ。このままだと話が脱線してしまう。

 だから私はそれ以上何も言わなかった。


 ——静寂が、私たちを柔らかく包み込む。

 かすかに広場から聞こえる歌声と歓声。軽音楽部の演奏。

 そのすべてが私の中をすーっと通って、抜けていった。


 私はごくりと唾を飲みこんで、服の袖をぎゅっと掴む。

 大きく息を吸い込んで、言葉と同時に吐き出した。



「私は——今から佐久馬に告白する」



 ここで止まったら一生言えなさそうだから、だから私は息継ぎもせずそのままの流れで言い放った。





「佐久馬……いや、『サクマ』。私は佐久馬がサクマだって知ってた。そして佐久馬が私をナミだと気づいていたことも……知ってた」





 ずっと黙ってたのも、あえて佐久馬に恋愛相談を持ち掛けたのも。

 全部全部——この時を迎えるためだった。


 広場から聞こえる歓声が、さらに大きくなる。



 

 ——きっと、クライマックスなんだ。





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