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1 新田佐久馬

新作です!

今日中に完結するので、ぜひ最後までご覧ください!

『ごめん死んだ。あとは頼む』


『ふざけんな! また死んだのかよ……クソッ! やってやんよ!』


 画面の中で繰り広げられる銃撃戦。

 俺、新田佐久馬にったさくまは血肉飛び散る戦場を横目にヘッドホンを外して「ふぅ~」と息を吐いた。


 現在の時刻は夜の三時。人によっては、朝とも言う。

 この頃俺はこの時間に最近流行りのFPS、『荒野集団行動』をやるのが日課になっていた。


 それも俺のネッ友である『ナミ』という人と協力プレーするのがお決まりだ。

 この人とは半年前からの付き合いで、このゲームではなくあらゆる協力ゲームを一緒にプレイしている。


『うがぁー負けた……。お前が弱いからだぞ、サクマ』


『悪い悪い』


 常にこうしてチャットで話しながらゲームをしている。

 おかげさまでタイピング速度が速くなったのはもちろん、今ではブラインドタッチもお手の物だ。


『もう一戦行っとくか?』


『いや、明日……というか今日は月曜、つまり学校があるんだ。さすがにそろそろ寝ないと、登校中に寝る羽目になる』


『高校生は大変なもんだなぁ。まぁ、大学生のオレには関係のないことだけどな』


『大学生ってそんな気楽なもんなのかよ』


『そうだよ』


 実際忙しいときは忙しいし、暇なときは暇だろうけど。

 でも三つ上の姉貴なんて常に「一瞬で時間をお金に換えられる機械が欲しい……ドラ〇も~~ん‼」と言っているし。  


 つまりはいろんな大学生がいるのだろう。

 

『そういえば、あの話どうなったんだ?』


『あの話?』


『あの話だよ』


『だからわかんねぇって言ってんだろうが』


 なんでキレてんだよ。俺がキレてーわ。

 俺は呆れながらも、キーボードに文字を打ち込む。



『お前の恋愛相談の件だよ。もう忘れたのか?』 



 数秒の間。

 既読はついているが、返信は来ない。


 寝落ちでもしたのか?

 そう思ってもう一度何か送ろうと思った時、ようやく返信が来た。


『忘れてねーよ。忘れるわけねぇっつーの』


『だよな。で、どうなんだ?』


『どうなんだ……って、別に、何も……』


『はぁ? 五時間もお前の長ったらしい話を聞いてやったのに進展なし? 俺の貴重な時間返せよ』


『う、うるせーな! オレだってこう見えても恋する乙女なんだぜぇ? そんなにすぐに行動に移せたらこんなに困ってねぇっつーの!』


 実は一人称が『オレ』で口調も荒いが、こいつは女なのだ。

 かくいう俺も、こいつから恋愛相談を受けるまで男だと思っていた。


『確かにまぁ、そうだよな。でも……そう言うの何回目だ?』


『……う、うるさい!』


 時折、「こいつ女なんだなぁ」と思う瞬間がある。

 今のはその一例だ。


『オレだって、頑張ろうとはしてんだ。だけどどうしても、目の前にしたら逃げちまうんだよ』


『なるほどな。確かにそれは分かるかもしれん』


『だろ? だからオレは、外堀を埋める! よしっ、オレは明日、好きな人にキスをする!』


『いきなりハードル高すぎやしないか⁈』


『高くない! オレなら余裕だっての!』


 じゃあ初めからそうしろよ、と思うのだがそれは言わないでおく。

 言ったら殺されそうだしな。


『そうか。じゃあ明日の報告に期待しておくとするか』


『おう、任せろ!』


 ナミはそう言って、ログアウトした。

 相変わらずだなぁ、と呟いては俺もログアウトする。

 すでに時刻は四時を回っていて、窓からほんの少し日差しが差し込んできていた。


「キス、かぁ……」


 嫌な予感を胸に抱きつつ、その一時間後、ようやく眠りについた。




    ***




「おはよ、佐久馬」


「おはよ、三奈」


 家から出ると、ドアのすぐ前に見慣れた美少女がスクールバッグを下げて、ちょこんと立っていた。

 名前は皆江三奈みなえみな。隣の家に住む幼馴染である。


 身長は149cmと小柄で、胸や目などを除いてほとんどの部分が人形のように小さい。

 髪型はミディアムボブで、ここら辺ではあまり見ない銀髪。

 また、顔立ちは整っていて幼馴染補正なしでも可愛いと言える。

 以前町を歩いていた時、スカウトに声を掛けられたくらいだ。


 ちなみに、幼馴染補正を入れるなら、一万年に一人の美少女と言ったところ。

 俺の中では、余裕で橋本〇奈を超えている。


 そして、そんな俺の幼馴染は今日も相変わらず眠そうにしている。


「お前昨日ちゃんと寝たのか?」


「むしろ寝すぎたくらい。それより佐久馬、相変わらず目の下のクマすごい」


「これはいつものことだろ。むしろこのクマがないと、たぶん誰も俺のことを判別できない」


「佐久馬のばか。相変わらずばか」


「朝から手厳しいな……」


 そんな小話をして、俺たちは駅に向かった。 


 俺たちの通う高校は、最寄り駅から電車でニ十分ほどのところにある。

 俺は夜更かししているからこそ、学校が家から近いというのは本当によかったと思う。

 

「うわ、相変わらず混んでんなぁ……」


「私、押しつぶされそう」


 だけど、超満員電車。

 ほんとよかったとか言ってらんねぇよマジで。

 自家用の電車が欲しいと思う日々である。


「お前ドア付近行け」


「ん」


 電車に乗り込んで、俺たちはドア付近に場所を確保した。

 そして三奈をドア付近に位置して、覆いかぶさるように俺が立つ。

 

 俺は体がでかいことだけが取り柄なので、満員電車時は本当に役に立つ。

 痴漢対策には持って来いの人材だ。


「佐久馬、近い」


「しょうがねーだろ。満員電車なんだから」


「……ん」


 案外あっさり受け入れる三奈。

 やはり三奈はどこか抜けている。


 それから五分、その体勢でいると眠気が俺を襲った。

 人間眠気に抗うことができず、瞼が地球に引き寄せられていく。

 そして気づけば俺は、目を瞑ってしまっていた。


「…………」


「…………んっ」


 目の前の小さな物体が、ゴソゴソと動く。

 当然密着しているからわかった。ついでに背伸びをしていることも、何となく予想がついた。


「ん、んっ」


 しかしどうやら身長が足りない様子。

 でも三奈はめげずに何度も背伸びをする。

 が、しかし。遂に諦めたのか背伸びをやめ、俺の首に手を回してきた。


「ん、よいしょっ」


「⁈」


 グイっと引き寄せられる。

 そこで目が覚めたのだが、時すでに遅し。


 勢いよく俺の頭と三奈の頭が衝突してしまった。


「「いったぁ~……」」


 頭を押さえる。

 でも重量的に、三奈の方が痛そうだ。


「大丈夫か?」


「……だいじょばない。佐久馬にいじめられた」


「俺何もしてねぇよ……」


 幼馴染の不思議行動。

 ずっと一緒にいた幼馴染の俺でもわからない行動を、よく三奈はする。

 

 だけど俺はこの行動がどのような意図で行われたのか知っていた。

 それは昨日の夜の、あの『チャット』を見たときから。



『よしっ、オレは明日、好きな人にキスをする!』




 俺は知っている。いや、気づいている。


 俺に恋愛相談をしてくるネッ友、ナミが俺の隣の家に住む幼馴染だと。

 そして、俺の幼馴染の好きな人が——俺であることを。




    ***




 なぜ俺がこのことに気づいているのか。

 それは至って簡単だった。



 ——三奈が分かりやすすぎるからである。



 ゲームなんて小さい頃から一度もしたことがなかった三奈が、俺がゲーミングPCを買った次の日に「私もそれ、欲しい」と言って無理やり購入に同伴させられたことがあったり。

 

 九時には絶対に寝る健康優良児の三奈が、最近は俺が寝る深夜三時まで部屋の電気をつけていたり。

 夜更かしの証拠に朝いつも眠そうにしてるし。


『実はオレ……隣の家に住む幼馴染が好きなんだ。名前はお前と同じサクマって言ってな……』


 と明らかに偶然にしては一致しすぎていることを言ってきたり。


 それにキャラネームの『ナミ』って、逆から読んだらミナになるし……。


 その他細かいことをすべて合わせて、間違いなくナミは三奈であることが分かった。

 わざとやってんの? と思うほどに分かりやすく、これでわからない方が逆におかしい。


 昔から、三奈は抜けているところがある。壊滅的に。

 だから、好きな人に恋愛相談を持ち掛けてしまうという究極の愚行も、しでかす可能性は十分にあるのだ。


「すぴー、すぴー」


 今こうして鬼と呼ばれる数学教師の授業でも爆睡してるくらいだし、相当抜けている。

 隣の席として起こしてあげるべきだろうけど、あえて起こさない。 


 まぁ、あれだ。あまりにも気持ちよさそうに寝てるから、起こすのも気が引けるってやつだ。


「……ヘッドショット。わぁーい。サクマ褒めてー……」


 いや寝言で普通に言っちゃってるし

 リアルサクマがすぐ横にいるんだけどなぁ……。

 ほんと、どこまでこいつは抜けてるんだか。


 で、俺はこいつがナミであることを前から知っているわけだが……俺はあえて、気づいていることを言ってはいない。 


 なぜなら、俺がここで「サクマって俺のこと。お前俺のこと好きだったんだな」と言ってしまえば、三奈の頑張りを踏みにじることになってしまうからだ。


 こいつは今、こいつなりに頑張ってくれている。

 それを踏みにじることだけは、絶対にしたくない。


 というわけで、三奈は気づいていないけど実は当の俺は気づいているというややこしい状況が生まれてしまっていた。


「むにゃむにゃ……死ぬなー」


 ……こいつ、ほんとお気楽だな。


 その後、当然爆睡していた三奈は、説教を食らった。

 たんまりと罰課題を出された三奈は、泣きそうになっていた。


 自業自得である……。




    ***




「お前ら相変わらず眠そうにしてんなぁ」


「眠そうにしているのがデフォルトだから、ある意味眠そうにしてるのが普通まである」


「佐久馬ウザい」


「それな」


「集団リンチされてます。アーメン」


 俺のツッコみにケラケラ笑うこの男。

 名前は伊佐奈美勇士いさなみゆうし

 サッカー部のエースで、学年屈指の爽やかイケメン。

 その他特筆することだらけなのだが、正直胸糞が悪くなるので以下省略。


 一年から同じクラスで、三奈とも仲がいい。


「ほんとお前の席の周りは眠そうにしてる奴ばっかだな。実際、三奈の隣の山下なんて、放課後になっても寝てるし」


 今も教科書を積んで枕にして、寝息を立てている。


「正直、あいつが起きてるところあんまし見たことないわ」


「確かに」


 まぁクラスに一人は必ずいるタイプだ。


「まっ、とりあえず帰ろうぜ。今日は部活オフなんだよ」


「おう」


「ラーメン、行きたい。麺、バリカタ」


「よっしゃ、決まりだ」


「今日は白米三杯はいけそうだわ」


「……おでぶ」


「うるせぇ!」


 そんな会話をしながら、俺たちは駅前のラーメン店に向かった。




   ***




「ふぅ~食った食ったぁ」


「もう……むり」


 ラーメンをひたすら食べた後、ファミレスで適当に話していたらいつの間にか夜になっていた。

 体は眠いはずなのに、日課のせいか目がぱっちりと開いている。


 これは今日も徹夜コースのようだ。


「ちょっとコンビニ寄っていいか? エナドリと課金カードを買いたい」


「あっそっか。今日一緒にガチャ回すよて——」


「ん?」


「……な、なんでもない。行く」


 ……今三奈、確かに「一緒にガチャを回す予定」って言ったよな。

 確かに俺は今日、ナミとガチャを回す予定がある。

 

 ナミは三奈なのだから、別にガチャを回すことに関しては何も違和感はない。

 でも、三奈は確かに今、「一緒に」と言った。

 それは俺がサクマであるということに気づいて……


「佐久馬、早く行こ」


 三奈が俺の人差し指をちょこんと掴んで、引っ張った。

 我に返った俺は、「あぁ」と返して三奈の横を歩く。


 ——気にしすぎなだけか。


 俺はそれ以上は考えないで、コンビニに入った。


 

 この日の夜は、ナミの恋愛相談がやけに長く続いた。 

 おかげで俺は体調を壊し、二日寝込む羽目になった。

 


最後まで読んだくださり、ありがとうございます(o^―^o)ニコ

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマーク、評価、感想よろしくお願いします(__)

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