7.検問船。
前回の出来事: 食事タイムしていたら、船内にアラート音が鳴り響いた。
少々時間を巻き戻す。
船橋では、船長のヒルダ以下、完全に意表を衝かれた形で慌てふためいていた――。
「どういうことだ? なぜ検問船がここにいる? まだ開戦通告は互いの首都星に届いていない筈だろう!」
1回目のワープが終わり、2回目のワープ開始地点に向かう途中、『スタークソル号』と『クロマグロ号』の前に現れたのは検問船だった。
開戦通告がお互いの首都星に届いてからが正式な戦争開始であり、それまではお互いの国民が自国に逃げ帰る事を許さなくてはいけない事は主要3国間の協定上ではっきり記されている。
この協定を守らない場合には、後で重いペナルティを課されることになるので、協定を破るものはいない――筈だった。
しかし、現実には目の前に一隻の検問船が迫っている。
ここまで近づかれると、気付かれずに逃げ出すことは難しい。
検問船はまずは巨大客船である『スタークソル号』の方に向かうだろう。
その間に逃げ出せるだろうか?
『解析終了。検問行為が行なえる事の根拠を一つ見つけました。この宙域をすでに開戦通告の通信が通過済みの可能性があります』
女性AIの解析結果を聞いた船長のヒルダは、強化クリスタル張りの画面を思い切り殴りつけると、人の力で破壊される筈のない強化クリスタルにヒビが入った。
「そうか、『宇宙タイムゾーン』か! のこり12時間はある筈だが、この宙域はもう通信の電波が通過済み――ギリギリ言い訳にはなるのか? いや、それは苦しいはずだ。だがしかし現に……」
ギリリと歯を噛み鳴らすヒルダ。
「それか、あの積み荷のお姫さんの所為じゃねぇすか? 協定違反してもいい程にあのお姫さんが重要人物だった、とか。だから『止めとけ』と忠告したのに――」
副官の位置にいる、頬に傷のある精悍なオークがジト目でヒルダを見つめる。
「な、なんだ、とうとうアタシは反逆されるのか? くっ、殺せ――。とうとうアタシは粗野で狂暴なオークに犯される――っ」
ヒルダは自分の引き締まった身体を抱きしめ、なぜか顔を赤らめ、ふるふると震えてみせる――。
「姉御、いい加減、人権侵害で訴えますよ?」
その時、理知的な光を目に宿した1人のゴブリンが話に割って入る。
「お頭、客人たちにもいっしょに考えてもらった方がいいんじゃないっすか」
もっともだと考えたヒルダは、アリエスたちを船橋に呼ぶ事にする。
「くっ……殺せ――、たしかにそうだな。『ゴブ夫』、客人たちを呼んできな」
「だ、だからおれっちの名前は『レイジ』という立派な……、もういいっす」
船橋にやってきたアリエスたちを出迎えたのは、ほぼ人と同じ大きさの2本足で直立した猫だった。
「にゃにゃー!」
「にゃ、な、いったいこの子は何ですの?」
「こいつは、ニャニャ一等操縦士。『お姫様にさっき褒めてもらったお礼を言いたい』んだそうだ」
頬に傷のある精悍なオークがぶっきらぼうに、アリエスに伝える。
「そ、そうなのね。貴方が……。見事な操船技術でしたわ」
「にゃにゃー!」「『光栄です』と言っている」
学園の講義で学んだ知識によると、この猫人は恐らく宇宙進出後に発見されたニャー星系のニャー種族だろう。
この世界における人類発祥の星には『猫』という生物は存在しなかった。
元の世界で猫好きだったという勇者は非常に哀しい思いをしたという。
長い時を経て、宇宙の片隅でニャー種族を発見したニャースを聞いた勇者の子孫は、思わず「神の思し召し!」と叫んだとかどうとか。
(――確かに、これは『神からの贈り物』だわ)
目の前の茶トラの猫人に、アリエスの前世からの猫好きだった血が騒ぐが、しかし今はそうしている場合でないと、なんとかモフりたい衝動を抑える。
「――ヒルダ船長、今現在はどういう状況なのでしょう。船内アナウンスで『検問船』とは聞こえてきましたが。それから、私たち3人を船橋に呼んだ理由を教えてくださいますか?」
「お姫さん。マズイ事になるかもしれない。お姫さんたちの命も掛かっているわけだから、アタシらだけで判断するのも良くないだろ? 同じく状況を見てもらって、その上で意見が欲しい」
なるほど、と頷いてみせるアリエス。
「ここにいる筈のない検問船、あの近づいてくる検問船が見えるか? 奴らはもうすぐ、協定無視でこの船を検問しにくるだろう――」