37.来訪!(3)
前回の出来事: 友人に個人騎士になって欲しいとお願いした。
――2人だけのディナーの後。
アリエスと別行動になったモアーズ。
これから侍女に案内されるのは、先ほどまでとはまた別の離れだった。
その場所が近づくにつれ、夜の涼しい空気の中に、若干あたたかで、わずかに湿気と心地よい魔力を含んだ空気を感じてくる。
ここは伯爵家の重要な客だけをもてなす為に造られた、お風呂専用の特別な建物。
離れの扉を開け、侍女と2人中に入ると、広々とした個室の脱衣所になっていた。
「お手伝いいたしましょうか?」
「いえ。1人で大丈夫です」
「承知いたしました。では、ごゆっくりとおくつろぎお楽しみください」
侍女が出て行くと、自動で扉のロックがかかる。
セキュリティはバッチリなようだ。
しゅるっ
ふぁさっ
モアーズの着衣を脱いでいく音が、密やかに脱衣所に響いていく――。
脱衣所から風呂場へと繋がる内扉を開けると、そこは乳白色の霧一色の世界が広がっている。
霧はちょうど良い人肌くらいの温度で、霧に魔力を含んでいる。
この世界の高位貴族層に流行りの魔力ミスト風呂というやつであろうか。
モアーズにとっては初めての体験だ。
とても気持ち良い。
(さて、アリエス様はどこだろう……)
侍女の説明によると、ちょうど建物の反対側にある入り口から、アリエスは入ってきているはずだ。
この離れの中に、大型の内風呂がひとつ、小型の内風呂が2つ、露天風呂が2つあるという。
その中のどこかにいることは間違いない。
――否、アリエスもモアーズを探す為に、まだ歩き探しているのかもしれない。
それにしても、この場に誰かいて、モアーズの姿を見たとしたら、その堂々とした立ち姿に、見惚れるではなく逃げ帰ってしまうかもしれない。
――否、物かげに隠れて、ずっと見続けていたい――そう考えるのではないか。
それにしても、魔力を含んだ霧がモアーズの大切な部分だけを隠してしまっているので、逆にモアーズをより蠱惑的なものにしてしまっている。
伯爵家の魔力ミスト風呂に含む魔力が、おそらくそのように大切な場所を隠すような調整をされているのだろうが、それは見事な調整だった。
本当に最低限必要な箇所だけ霧で覆わた、褐色の肌。
細く長い手足や見事な薄い腹、細い腰のくびれ、パイロット候補生の鍛えられた筋肉、美しいアーモンド形の縦ベソ、そして見事な上下の双丘――もちろん上の双丘の頂は絶妙に隠されている――いやはや、見事であった。
これは、先ほどの『蠱惑的』などという表現だけでは、彼女の肉体にいささか失礼であろう。
これは、『美』である。
そして、『芸術』である。
――否、ただただ、『生きた極上の美術品』である。
きっとここに変態ロボがいれば目から光線を発しながら、
「我モ霧ニナリタイ!!」
そう叫んでいたに違いないだろう……。
やがて、モアーズは向こうから歩いてくるアリエスを発見する。
(アリエス様、なんて美しい)
自身の美しさは棚に上げて、アリエスの身体の美しさに内心で感じ入るサキュバス族の少女。
そこには輝かんばかりの存在感を示す、裸の吸血族の少女がいた。
モアーズに負けず劣らずに、見事な造形な身体のライン。
ため息をつくほど瑞々しく滑らかなシルクのような白い肌。
芸術品の様に細く造形された腰、細長い鞭のようにしなやかな手足、存在を主張する胸、キュッと締まった形の良い美尻。
そして、こちらもパイロット候補生として鍛えられた、見事な美しい腹筋と可愛らしくも美しい形のアーモンド型の縦ベソが目に眩しい。
もちろん、魔力を含んだ霧はアリエスの大切な部分だけを隠しており、大変によろしい光景である。
ここに変態ロボがいれば(略)。
◇
「アリエス様」
向こうから近づいてくるモアーズ。
この世界では、お風呂での交流時には堂々と裸をさらすことが礼儀とされている。
しかし、サキュバス族の裸身は、アリエスにとって目の保養どころか、目の毒に思えるほど魅惑的・蠱惑的に写った。
(私、落ち着かないとですわ。こんなことでは、おもてなし出来なくなってしまいます――)
平常心を取り戻そう、心を落ち着けようと内心必死なアリエス。
なんとか、表情を取りつくろうことに成功したようだ――。
「まずは、あちらにある『百億年の湯』がオススメですわ。お湯に血行と代謝を良くする魔力が含まれているのです」
アリエスが、自分のお気に入りの湯にモアーズを案内し、2人で並んで浸かることにする。
――そこで、すぐ側に座ってくるモアーズと、少しぶつかってしまう。
(あぅっ……♡)
肌が当たった場所にもたらされた甘美な感触に、驚きとたまらなさを感じるアリエス。
なんとか、表向きは平常心を保つことに成功できたであろうか。
その裸身がお湯に隠れたことで少しばかり安心できたが、隣にモアーズの存在があること。
――そのこと自体がアリエスの動悸と息ぐるしさを誘うのだった。
◇
しばしのお風呂談義を楽しむ少女たち。
お互いに「お風呂が好き」という共通点が見つかり、話は盛り上がったようだ。
しかし、全部の湯を回りきるのにあと1つというところで、先にアリエスが限界を迎えたようである。
「私はそろそろ上がろうと思いますが、モアーズさんはどうしますか?」
「あっ、ボクはもう少し入っていても良いですか? せっかくなので、全部を制覇したいと思って。あと1つだけですから」
「もちろんですわ。ぜひ、ごゆっくり楽しんでください。お風呂から上がったら、侍女が客室にご案内しますわ。何でも困ったことがあれば彼女に申しつけください」
「ありがとうございます。……では今夜、『アリエス様の夢』で」
「……はい。『夢訪問』お待ちしておりますわ」




