36.来訪!(2)
前回の出来事: 友人も変態ロボにスキャンされてしまった。
「アリエス様とボクだけ……なんですね」
「はい。ティータイムは、私のお母様が『どうしてもモアーズさんに会ってみたい』と言って聞かなかったので、今回ご一緒させていただいたのです。でも、ディナーは私と2人だけにしてもらいました。――それとも、誰か同席させた方が良かったでしょうか?」
「あっ、いえ。そういうことじゃなくて。ボクもアリエス様とゆっくり話がしたいと思っていたので、2人だけのディナーは嬉しいです。――でも、なんだか緊張しますね」
くすっ、と笑って見せるモアーズ。
その微笑みにまた、くらっ、とするアリエス。
ここは、伯爵家の屋敷にある、数ある離れの1つ。
今夜、密やかに少女だけの夕食会が催されている――――。
「これで『全て終了』ですわ」
「はぁ……。本当に全部とても美味しかったです。特にデザートの『プリュム』は、初めて食べたのですが、今まで生きてきた中で、1番感動しました」
満足を示すため息混じりの感想で分かる通り、今日出された伯爵家の食事の品々に、モアーズは深い感動を覚えていた。
どの皿も初めて食べるのにどこか懐かしさがあり、モアーズに不思議な驚きを感じさせてくれたのだった。
特に、最後の『プリュム』というデザートは、深い感動を味わわせられた。
因みに、プリュムは、アリエスが初めて前世の知識を使って開発したオリジナル(?)なお菓子。
前世では『プリン』と呼ばれていたモノにアレンジを加え、モアーズの家名『ドリュム』をもじって、伯爵家のシェフと共に今日の為に開発していたのだった。
オリジナルのデザートを作りあげてしまう位には、今日のおもてなしにアリエスが全力を注いでいる証拠であろう。
「モアーズさんのお口に合ったみたいで、良かったですわ」
モアーズの好評価の様子に安堵するアリエス。
最後の皿が下げられ、食後に出されたノンアルコールの発泡果実水をゆっくりと飲むだけになった。
給仕の者は全員下がり、この場には2人だけだ。
大切な話をするにはここしかない、というタイミングである。
アリエスは、言ってしまおう、と心を決める。
「モアーズさん、実は大切な話――いや、『お願い』があります」
モアーズは、口を挟まずに、アリエスの次の言葉を待ってくれている。
アリエスは勇気を出した。
「わ、私の『個人騎士』になっていただけませんか?」
「ボクがアリエス様の『個人騎士』に――――ですか?」
「じ、実は『個人騎士』になっていただきたい理由があるのです。我が伯爵家の巨竜機人が特別製で機密の塊なんです。だから……秘密を守っていただく為に……」
「ボクが疑問に思ったのはそこではなくて、『どうしてボクを?』の部分です」
「あっ、それは、その……誰かを側に置かないといけないということを考えた時に、『モアーズさんが側にいてくれたら嬉しいな』と思った――ただそう思いましたの」
「なるほど……」
しばし考えている様子のモアーズだったが、答えを出すのにそこまで時間は要さなかった。
「ボクが男爵位を継ぐまでには時間があります。期限は限らせていただく必要がありますし、他にもいくつか整えなければいけない条件はありますけど、基本的にはアリエス様の個人騎士になってもいいですよ」
◇
「ほ、本当ですか! あっ、でも、ご存知ないかもしれませんが、吸血鬼族の『個人騎士』というのは、『血の契約』を結ぶのです。もちろん、『個人騎士』の解除の際には、『血の契約』も併せて解除できる様にいたしますわ」
アリエスはあわてて、『血の契約』――すなわち、吸血行為を行う必要があると説明を加える。
「もちろん、吸血鬼族の『個人騎士』と『血の契約』については、この国に籍を持つ者として勉強してますよ。『血の契約』を結ぶことで、『個人騎士』になっている期間の『従属効果』『秘密黙秘効果』が得られる目的があることも知っています」
「そ、その……『吸血行為』については、もう1つ『吸血する方とされる方の両方に激しい快感を伴う』ということはご存知ですの?」
「はい。もちろん」
そう答える簡潔なセリフとは裏腹に、サキュバスの濃厚なフェロモンを含んだ吐息と目配せがアリエスを襲う。
その直撃を受け、思わず心の中で鼻血を決壊させてしまったアリエスだった。
◇
「と、ところで『他にもいくつか整えなければいけない条件』というのは……?」
どうにか正気を取り戻したアリエスは、モアーズが口にしていた気になる点を質問する。
「実は、ボクもアリエス様に、お願いがある、かもしれません」
「なんでしょう。私に出来ることでしょうか」
「どうでしょう。それは、今夜アリエス様の夢にお邪魔してみたら分かるかもしれません」
「『夢訪問』、ですわね――」
モアーズのお願いは、何か難しいお願いなのだろうか。
でも、向こうにもお願い事があるなら、こちらもお願いをしやすいというもの。
アリエスは、逆に良かった、と考えた。
「では早速、眠ってしまいましょう。『夢訪問』は隣に眠らないといけないのですか?」
「いえ、離れた部屋で大丈夫ですよ。それこそ遠く離れた星でも」
「そうなのですね。すごい……。では、おやすみ前にお風呂を用意させますわ」
「ありがとうございます。伯爵家のお風呂、楽しみです」




