35.来訪!(1)
前回の出来事: 母が変態ロボにスキャンされてしまった。
今日は待ちに待った、エルアルスペイド伯爵家にモアーズがおとまりに来る日である。
招待状に記されている時間通り、モアーズが到着したのはティータイムの時間すこし前であった。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「モアーズさん、ようこそいらっしゃいました」
「いつも娘と仲良くしてくださって、本当にありがとうございます。今日はぜひ楽しんでくださいね」
モアーズをおもてなしするのは、長女のアリエスと母ウリムスである。
あまり多い人数で出迎えても、モアーズを萎縮させてしまうだけ、ということで、父ノーディスと妹ミリエル、それに弟カーディスには本日はひかえてもらうことにした。
(お父様とカー君がサキュバスの魅力にハマってしまったら、大変ですものね……)
うんうん、と1人で頷いているアリエス。
だが間違いなく父ノーディスと弟カーディスは、モアーズの《魅惑》への抵抗判定に成功するであろうことをアリエスは知らない。
本来であれば、吸血鬼族の精神抵抗値はサキュバス族の《魅惑》に対して問題ないのだ。
アリエスだけ特別にモアーズに対して紙装甲なだけだ――。
まずはバルコニーで優雅にお茶会が開催された。
お茶会の準備は母ウリムスの担当である。
「このお茶、お口に合うかしら」
「とても美味しいですね。これは連邦のお茶でしょうか」
「ご名答だわ。流石、ドリュム男爵のご令嬢ね。このお茶はドリュム男爵縁の地の――――」
「このお菓子はどう?」
「あっ、この味はもしかして、ドリューム商会の……?」
「正解! 新作を取り寄せたんですよ」
「お恥ずかしながら、ボク今初めて食べました」
娘そっちのけで盛り上がっているが、アリエスにとってもありがたい。
おかげで、次の『段取り』を考えていることができるからだ。
(この後は、あーして、こーして……)
◇
「ぅひっ……ぅひゃぅっ」
どこからか、聞いてはいけない音が漏れてきている。
ここは、巨大ロボットのコックピットのハッチ前。
アリエスの友人モアーズが魔力スキャンを受けているのだった。
アリエスは静かに、時が過ぎるのを待つ。
「――魔力スキャン、とってもくすぐったかったです……」
「ピーピー」という終わりの合図で、コックピットの中に入ったアリエスを出迎えたのは、着衣が乱れた姿のモアーズである。
軽い材質のスカートが、太ももがあらわになるくらい捲れ、上着の前が開いてしまって胸のあたりまで見えてしまっている。
バターが塗られたような艶やかで若い褐色の肌は、同性のアリエスでも思わず口づけしてしまいたくなるほど、美味しそうな色気が発散されていた。
ゴクッ
思わず唾を飲み込んでしまう。
「も、モアーズさん、服が乱れてしまっていますわ……」
「あっ、お見苦しいところを、申し訳ありません」
(ぜんぜん、見苦しくなんかありませんわ……)
サキュバス娘の色香に、軽く中てられてしまっている様子の伯爵令嬢の姿がそこにはあった――。
「アリエス様、ウリムス様、どうでしょうか。ボクにも似合っているでしょうか」
「モアーズさん、よくお似合いよ。モアーズさんの褐色の肌に、白の絹の生地が良く映えているわ」
まるで、服飾店の店員の様に褒めそやす母ウリムスと、
「モアーズさん、とてもとても、よく似合っていますわ……」
ほとんど感嘆のため息をついてしまっているアリエスの親子であった。
「この肌触りはスゴいですね」
自らの身につけた下着の刺繍部分や無地の部分に指を這わせながらうっとりとしているモアーズを見て、アリエスは少しクラッとくる軽度の酩酊感まで味わっていた。
(――モアーズさん、色気が犯罪級にあり過ぎですわ……)
一方の変態ロボはというと――
『素晴ラシイッ、我ガ主ノ「ぱーとなー」ハ、見事モアーズ殿ニ決定デスッ!』
「お前に決定権は無い」と言いたいが、どうやらこちらもモアーズの色気にメロメロの様子。
主従揃って、この有り様である……。
「その絹の下着はおみやげとして差し上げますので、着けたまま持ち帰られて大丈夫ですわ。そして、これからディナーにご招待させていただきますわ……」
正気を取り戻すように頭を軽く振りながら、何とか次の予定を伝えるアリエスなのであった――――




