34.母スキャン。
前回の出来事: サキュバスな友だちを家と夢に招待する約束をした。
アリエスは家に帰ると、さっそく母のウリムスに「モアーズを家に招きたい」と相談した。
「もちろんいいわよ。アリエスがお友だちを連れてくるのは久しぶりね」
うきうきしている様子をみると、どうやら母も娘と一緒になってモアーズをもてなすつもりらしい。
「あのドリュム男爵家のところの娘さんなのね」
「はい、お母様。それに長女です」
「ということは、将来のドリュム男爵なのね。ドリュム男爵家の持っている商会って、すごく好調らしいし、ぜひ仲良くなりたいわ」
ペロッと舌をだして見せる、お行儀の悪い母ウリムス。
「それで、お母様。もう少しご相談したいことが……」
「ひゃんっ♡ いやっ!?」
母の嬌声が巨大倉庫に響き渡った為、アリエスはそっと操縦席のハッチを閉じた。
(お父様に聞かれては、とてもマズいですわ……)
そう。
ここは、巨大ロボットのコックピットである。
母ウリムスは巨大ロボットの魔力スキャンを受けていた。
「いやっ、ドラちゃん、くすぐったいっ♡ ひゃっ!?」
吸血伯爵婦人のウリムスの魔力の感度は、とても敏感であった。
3人の子持ちの人妻なのに、元人間族の吸血鬼妻の声が若々しく艶めかしい。
母親のこんな声を聞かされては、娘のアリエスは顔真っ赤、且つ内心はかなり複雑である。
漸く、長い時間を掛けての魔力スキャンが終わり、やっと解放された母ウリムスの着衣は、もちろん乱れていた。
「や、やっと終わったのね……もうドラちゃんたら」
「大変申シ訳アリマセンデシタ」
慇懃に返事をする犯人。
涙目で巨大ロボットのレンズを可愛くニラむ、子持ちの人妻。
巨大ロボットがよそ行きのしゃべり方なのは、アリエスの命令であった。
そして、すぐに、
ポシュンッ
と、コックピットの右側から箱が飛び出してきた。
中をのぞくと、アリエスの時と同じ、白の下着の上下が納まっていた。
いや、若干、色に違いがある。
黄色掛かっている。
(すごい。この子ったら、色もバリエーションが出せるのかしら……)
「うわっ、スゴイ素敵じゃない。特に、ここの刺繍っ」
「お、お母様っ。ここで着替えてしまっては、はしたないですわ。お部屋で――」
さっそく着替えようと、服を脱ぎ始める母を、アリエスが止める。
――が。
「すぐに試着すれば、万が一サイズが合わなかったら、すぐ作り直してもらえるでしょ?」
母のいう通りであるが、アリエスは嫌な視線を感じていた。
「ドラグヌフ! レンズを閉じなさい!」
巨大ロボットのレンズが全て閉じられたのを確認して、母ウリムスにOKの合図を出すアリエス。
もちろん、巨大ロボットのレンズ以外のセンサーは、人知れず全てオープンになっていた。
巨大ロボットの全センサーが、順調に母ウリムスのデータを記録していく。
『オオッ、オ母上サマッ』
またしても、音声として出力されない巨大ロボットの賞賛の声が上がった。
これで、母娘のデータを制覇である。
『イヤ、我ガ主には、マダ妹君ガオラレタハズ……』
なんと欲深い変態ロボだろう。
「アリエス、どう? 似合っているかしら」
「お母様、とっても似合っていますわ」
娘と違って、どうどうとした様子の母。
それは見事で高貴な下着姿であった。
とても、3人の子持ちとは思えない、完璧なお姿であった。
『素晴ラシイッ、我ガ主ノ、オ母上サマッ!』
人知れず、心の中で歓喜の声を上げる巨大ロボット。
「それにしても、この着け心地と見た目の素晴らしさ刺繍の見事さ――ドラちゃん、あなた一体何者なのかしら?」
ここに来て、巨大ロボットの正体に俄然興味をひかれる伯爵夫人。
「じ、実は、アーティファクトなんです……これ以上はお父様に口外を禁止されています」
「ふーん、そう。深くは聞かないけど。……それで、この絹の下着をどうしようと思っているのかしらアリエス?」
何が嬉しいのか、ニヤニヤと娘を見やる伯爵夫人。
「あ、あの。お母様とモアーズさんに、この下着の『商品モニター』になってもらえたら、どうかと思いまして……」
「なるほど。伯爵夫人であるこの私と、最近好調の商会を持つ次期ドリュム男爵の娘に、この絹の下着を『商品モニター』させる……考えたわねアリエス。流石、私の娘!」
母ウリムスの頭の中で、金貨が零れ落ちる音が鳴り響く。
実に似たところのある母娘であった。




