33.ご招待。
前回の出来事: 『前』だの『後ろ』だの、乙女に相応しくない会話をしてしまった。
モアーズを担任教師に紹介されてからというもの、アリエスはサキュバス族について予備知識を仕入れていた。
そのところによると、サキュバス族は他者の夢の中に入る『夢訪問』という『種族スキル』を持っているらしいことは知っていた。
「今度、ボクをアリエス様の夢にご招待していただけませんか?」
そして、モアーズのこのセリフは「もっと貴方について知りたいので、貴方の夢に遊びに行きたいわ」という意味を持つ。
なんでもサキュバス族という種族は、仲を深めたい相手の夢に入りたいと思うものらしい。
「! もちろんですわ」
突然のモアーズの『お願い』を、仲を深めたい相手として見られてると知り、嬉しさ半分と困惑半分でアリエスは承諾する。
(『男性に対して使うことが多い』と書いてあったセリフだから少し気になるけど、女性に対して使っても何もおかしいことはないはず……)
僅か奇妙に感じつつも、不思議なことではないと自分に言い聞かせるアリエス。
「パートナーとしてもっと信頼関係を深めたい」
きっとそういうことではないか。
ちなみに、サキュバス族が他者の夢に入るのは、別に特別な招待を必要とはしない。
あくまで、他の種族に対してのエチケットやマナーとして『招待』という形を取っている。
もちろん、招待する側が「受け入れる」という精神状態になれば『夢訪問』のスキルに対する抵抗値を下げ、『夢訪問』の成功判定が上がるというメリットはある。
しかし、今のアリエスの精神状態なら、モアーズは余裕かつ無許可で侵入できるだろう。
精神抵抗値が高いはずの吸血鬼族としてはあり得ないことだが……。
◇
「で、では。今度の週末に私の家にお泊まりに来ませんか? その時に私の夢にもご招待しますわ」
「とても嬉しいです。ぜひご招待ください」
「それでは、正式な招待状をモアーズさんのお家にお届けいたしますわ。ところで、モアーズさんのお家は、あの有名なドリュム男爵家でいらっしゃいますか?」
「あの、ドリュム男爵です。長女です」
「まあ。そうでしたのね」
ということは、モアーズは将来的に男爵家を継ぐことになるのだろう。
サキュバス族は、例外はあるらしいが、ほとんど女性だけの種族。
家を継ぐのは長女が通例である。
(ということは、私の騎士になってもらうのは厳しい……?)
実はアリエス、父のノーディスから「個人騎士の候補を探すように」と言われていた。
目的は巨大ロボットの複座のパートナーとしてである。
また、巨大ロボットの方からも、副操縦士の候補を誰か探した方が良い、と言われていた。
巨大ロボットからは、その候補を探す際のアドバイスもあった。
ズバリ『アリエスと同年代の若い女性』である。
その理由は、操縦室では裸か下着になる必要があるから、同じくらいの年齢の同性の人物が良いという――確かに筋は通っている。
実に恐るべき変態ロボである。
しかし、アリエスとしても、モアーズが男爵家の跡継ぎであることを除けば、最も自身の個人騎士として側におきたいと考え始めていた。
(彼女を私の個人騎士としてスカウトする為に、この機会を逃す手はないですわ)




