31.野外演習と白いごはん。
前回の出来事: 巨大ロボットが密かにレベルアップしていた。
アリエスがこれまで学園の講義などで学んだ知識によると、サキュバス族という種族は吸血鬼族とほぼ同じ体の強靭さを持つらしい。
ということは、2人1組で操縦する巨竜機人の操者として、サキュバス族のモアーズはパートナーとして申し分ない可能性があった。
ちなみに、元留学先のウァーン共和国の時は、アリエスは固定で決まったパートナーは特にいなかった。
それは、固定できるほど相性の良いパートナーがいなかったことを意味するといっても過言ではないだろう。
その理由としては、他の生徒に比べてアリエスの実力が高かったのは間違いないのだが、それよりも、種族特性としての吸血鬼族の体の強さの方が影響が大きかったかもしれない。
モアーズとの会話のコミュニケーションは特に問題なく、むしろ好ましいと思われたので、今回の野外演習で巨竜機人のパートナーとしての相性が良ければ、それはアリエスにとって、とても嬉しいことと思われた。
「そろそろ休憩でもしませんこと」
「いいですね。ちょうど空腹感を覚えたところです」
「では、お弁当も食べてしまいましょうか」
主操縦士と副操縦士を2回ずつ交替で試してみた2人は、水分補給と軽食でも取ろうと休憩することにした。
2人はハッチを開いて、自然の風に触れながら、持ってきた水筒から水分補給を行い、お弁当を取り出す。
今回、訓練用で使っている巨竜機人は操縦席入り口が手前に倒れて開くタイプになる。
パイロットスーツ姿の2人は共に胡座をかく形でハッチの上に座った。
普段は貴族的な行動が望まれる女子学生たちも、この時間は粗野な振る舞いが格好良いとされており、2人が胡座で座っていることは何も特別なことではない。
伯爵令嬢のアリエスといえども、同じ候補生同士、無礼講な世界である。
ところで、パイロットスーツを着た14歳の少女2人の姿はとても尊いものであった。
地面から離れた高い位置で、少し強い風が2人の顔を、髪をなでる。
パイロットスーツは薄い素材で出来ているので、彼女たちの体の線が良く見えてしまっている。
巨大ロボットがこの場にいれば、100枚や200枚は写真が撮られていたに違いない。
しかし、女子同士なのに、アリエスの頬が若干赤みを帯びているのは何故だろう……。
(あっ……)
アリエスの目が、サキュバスの少女が手にした白色のチューブを捉えた。
モアーズはアリエスが自分の持つチューブをアリエスが注視していることに気付き、ニッコリと微笑んで見せる。
この瞬間、アリエスは顔を真っ赤にしてしまった。
それを敢えて気にしていない風に、コクコクと白い液体を飲むモアーズ。
アリエスは頭を振り、不埒な考えを頭から追い出そうとする。
(何を考えているのアリエス。こんな差別的な事を想像してしまっては、せっかく仲良くなれそうな彼女に嫌われてしまいますわ……)
モアーズから視線を外し、自らも赤いチューブを取り出す。
「ふふふ。アリエス様、あまり気にしないでくださいね」
「あっ……」
やはりもう、モアーズには、アリエスが不埒なことを考えているのを見抜かれてしまったようだ。
アリエスを自責の念が襲う。
「あっ、アリエス様、本当に気にしないでください。誰でも同じ事を考えてしまうみたいなんですよ。皆同じなんです。ボクたちサキュバスは馴れているので、ホント大丈夫ですよ」
気が付いたときには、モアーズの両手が、アリエスのチューブを持つ手を優しく握っていた。
サキュバス少女の思いやりの温かな気持ちが、アリエスの心に流れ込んでくる――――。




