30.高魔素風呂。
前回の出来事: サキュバスが新しいパートナーになった。
転入初日を終え、伯爵の館に戻ってきたアリエス。
(――クラスメイトの皆さん、どなたも感じのいい人たちでしたから、きっと上手くやっていける気がしますわ……)
特に、新しいパートナーと紹介されたモアーズさんとは、特別仲良くなれそうな気がしていた。
(――少し、色気がすごい女の子ですけど)
しかし、モアーズのことを思い出すと赤面してしまうのは何故だろう……。
(――そういえば、アレはいい子にしているかしら)
アレとはいわずと知れた、下僕の巨大ロボットである。
今頃は、父のノーディスに用意してもらった『高魔素風呂』に浸かっているはずだ。
巨大ロボットによると、魔素風呂にしばらく浸かることにより、破損した箇所の修復が自動で行われるらしい。
それはスゴい。
アリエスはアレの様子を確認するために巨大倉庫に寄ることにした。
「我ガ主ノ父君ガ用意シテクレタコノ風呂ハ最高ダゾ。我ガ主ヨ」
ただの巨大な箱に入っているように見えるが、アリエスの目にはとても濃い魔素で満たされているのが分かる。
人と同じく風呂に入って気持ち良さそうな巨大ロボット。
「それは、良かったです」
気持ち良さそうな巨大ロボットの様子に、微笑ましいものを感じたアリエスだが、どことなく違和感を感じた。
違和感の原因を探し始めるアリエス。
「そういえばドラグヌフ、操縦席に搭乗していないのに、貴方の声が聞こえるのは、会話できているのはどうしてでしょう?」
「コレハ、我ガ主ノ種族スキル『念話』ヲ使ッテイル。我ハ我ガ主ノ下僕ダカラ、使エルヨウダ」
「えっ、そうなのですか? それは驚きです」
「マダ我ガ未熟ダカラカ、声ガ届クヨウニナッタノハ我ガ主ガコノ倉庫ノ中ニ入ッテカラニナルガ」
「そうなのですね。……それにしても便利ですわ」
そうだったのか――と納得しかけたアリエスだったが。
(――まだ、何かおかしい気がしますわ……?)
巨大ロボットをしばらく見つめていたアリエスだったが、ようやく気づいた。
「分かりましたわ! ドラグヌフ、アナタ、前と少し形が変わってますわね?」
何と、かなり不格好だったはずの巨大ロボットが、ほんのわずかではあるが、前よりカッコよくなっている。
「気ガツイテクレタカ我ガ主」
「もちろんですわ。しかし、どういうことですの?」
「我ハ此度ノ戦闘デ『れべるあっぷ』シタヨウダ。色々、性能ガアガッテイル」
「えっ、ドラグヌフ、アナタは成長が出来るのですか?」
この世界の人類は、モンスターや同じ人類と戦ったり殺したりすることで、経験値を得て成長することがあるという。
人の手を借りずに成長する機械――それは、もう人類、いや人智を越えた存在ではないだろうか。
「ソノヨウダ。我モハジメテノ実戦ダッタカラナ。『れべるあっぷ』ハ初体験ニナル」
「流石は神代の遺物ということかしら。すごいですわ……」
初回講習で学んだ、巨大ロボットが本物の意思・魂を持つ『半機械生命体』という事の意味がようやく理解できてきたような気がする。
「ソウダ、我ガ主。我ノ操縦席ノ中モ見テクレナイダロウカ」
「もちろん、いいですわよ?」
(――操縦席にも、何か変化があったのでしょうか?)
不思議に思いながらも要請にこたえる形で操縦席の中を確認したアリエスはかなり驚くことになる。
「えええっ!? ざ、座席が2つ!? ドラグヌフ、アナタ、複座になってますわよ!?!?」
そう。
巨竜機人と巨大ロボットの最大の違いだったはずの1人乗りの象徴、『単座』が何と、2人乗りの『複座』に変わっていたのだ。
アリエスは思ってしまった。
(――これでは進化ではなく、退化の間違いではないでしょうか?)




