29.サキュバス登場。
前回の出来事: 無事、家族との再会を果たせた。
ウァーン共和国からアィーヒ帝国に戻ってきた形になるアリエスは、元々通っていた学校に転入することになった。
妹のミリエルと弟のカーディスも同じ場所に通っている。
「アリーねーさま、がんばれ~」
「お姉さま、がんばってくださいね!」
けんめいに手を振っている妹と弟をほほえましく思いながら、手を振り返す。
妹のミリエルは中等科、弟のカーディスは初等科と別々の建物になり、高等科が1番学園の入り口から遠くなるので、アリエスが2人を見送る形になった。
(――懐かしいですわ……)
中等科までは通ってた学園に懐かしさを感じるアリエスだが、高等科の建物は初めて。
正門を恐る恐るとくぐれば、目的の職員室はすぐに見つかった。
アリエスの到着を待っていた担任の吸血鬼族の女性に案内されながら、自分がこれから入ることになるクラスについての事情を確認する。
教師の説明によると、この学園の高等科には操者育成コースが男女に分かれて2クラスあり、アリエスはもちろん女子クラスに入ることになる。
「アリエスさんが入ることになるクラスには、9名の同級生が学んでいます。その中から1人、在学中のパートナーを選んでもらうことになりますが、丁度1人パートナーが空いている生徒がいるので、最初は彼女と組んでもらう予定です」
まずは担任教師の薦める生徒と組んでみて、相性しだいでパートナーを組み直すことも考える――そのような担任教師の説明にアリエスも納得できたので、それで良いと返答する。
「ボクの名前は、モアーズ・ドリュー・ドリュム。よろしくお願いします」
さっそく紹介された生徒のモアーズに、アリエスは何故だかドキっとしてしまった。
「わ、私は、アリエス・グリムス・エルアルスペイド。こちらこそよろしくお願いしますわ」
思わず声がうわずって、少々どもってしまう。
(――なんだろう? とても色気がある子ですわ……)
「モアーズさんは、この国では珍しいですが、サキュバス族になります」
教師の紹介に「なるほど」とうなづくアリエス。
もし、自分が前世の様に男性だったとしたら、とても正常ではいられなかっただろうと考えてしまう。
とても滑らかそうな褐色の肌に、くるくるとナチュラルにカールする銀色のショートカーリーヘアが印象的な彼女は、アリエスに人好きのする笑顔で微笑みかける。
「どうも。この国で珍しいサキュバスです。人間族の男の子ならイチコロらしいですよ?」
「あっ、よろしくお願いしますわ。私は吸血鬼族ですわ」
アリエスは、珍しい種族を見るような目で見てしまったコトを詫びたい気持ちになってしまった。
お返しに、自分の種族を説明するが――。
「だと思いました。とてもキレイな(吸血鬼族の)耳の形しているから」
と、モアーズはすぐさまアリエスの耳の形を褒めつつ、「吸血鬼族だと知ってた」ことを明かす。
「そ、そんな。褒めても何も出ませんわっ」
不意打ちを受けたアリエスは耳を真っ赤にしてしまう。
褒められて気分が良くなったからか、モアーズの第一印象は、
(何だかうまくやっていけそう。)
そんな気がするアリエスだった。




