24.決戦!(5)
前回の出来事: アリエスは必殺技を止められた。
~戦闘モード×3 残り0秒~
アリエスの視界の隅で『残り0』が表示される。
「我ガ主、我ノ魔素ガ切レタ、『戦闘モード×3』時間切レダ」
「そ、そんな……」
急激に、機体から、力が抜けていく巨大ロボット。
本体からの魔素の供給が途絶えたため、『恒星剣』は只の『黒の剣』に成り下がってしまい、とうとう『光学魔法剣』に押し負けてしまう。
「マズイ、我ガ主、通常戦闘ノエネルギーモ、残リ僅カダ」
「そんな、筈は……」
アリエスは自分の負けを認識しなければいけない。
敵の正体は、共和国なのか連邦なのか。
自分はどこに連れて行かれるのか。
自分の命は助かるのか。
自分が捕らえられた所為で戦争に負けるという事があるのだろうか。
ここまで自分を助けてくれたザンドとグレゴリはどうなるのか。
危険を冒して、運んでくれたヒルダとその仲間達の運命は。
……アリエスは自分の負けを認識しなければいけない。
敵は巨大ロボットが急激に力を失っていく事で、こちらが何らかの問題を抱えている事に、もう気付いているだろう。
敵の光学魔法剣が巨大ロボットに打ち込まれ、装甲が削られ、竜血が、破損した部品が宇宙空間に飛び散っていく。
「右腕損傷80%、胸部損傷30%」
(――私は負けたのですか?)
(――私は負けたのですか?)
アリエスは自分の負けを認識しなければいけない。
「右腕損傷100%、接続切断」
(――私は負けたのですね……)
アリエスは、巨大ロボットの消え掛けの僅かな運動エネルギーを使い、左腕のみで『恒星剣』をアイテムボックスに収める。
敵巨竜機人は無手となった巨大ロボットを見て、攻撃の手を止めた。
巨大ロボットの仮想現実空間の維持が難しくなり、アリエスと巨大ロボットの間の『接続』が次々と切れていく。
視界を覆っていたゴーグルが外され、現実のアリエスの目に飛び込んできたのは、無残な現実であった。
急激に体中が寒気と吐き気に襲われるアリエス。
震えながら、血の気を失った青白い自身の細身を抱きしめる。
(――私の敗因は……)
チュートリアルの神代の戦いと、現代の戦いの違いに気付かなかった……。
現代戦の実戦を経験した事が無かった……。
前世でこれほどのリスクを背負った戦いをした事が無かった……。
「宇宙史上『最強ノ兵器』」――という巨大ロボットのセリフを過信した……。
初陣が、これ程の相手というのは運がなかった……。
そもそも、宇宙空間で植物魔法って使用できるのですか……。
(――全て、敗者の言い訳ですわ)
負ける可能性を口にしつつも、無意識レベルでは、アリエスは完全に勝てる気でいた。
一体どういう理屈で撃墜王を無礼る事が出来るというのだろうか。
己の戦いに望んだ決意が、到底覚悟と呼べるものではなく、過信盲信慢心の類いであった事に今更ながら気付くが、時既に遅し。
「宇宙史上『最強ノ兵器』」に、おそらくは史上初の土を付けさせてしまった自分は、エリート候補生などでは決してない――。
(――いえ、ドラグヌフの所為などでは一分たりともありませんわ。ドラグヌフはこう言っていたではありませんか……)
"余裕ノ勝利ヲ、約束シマショウ。ワタシト貴女ノ力ガ合ワサレバ"
"全テワタシガ『フォロー』スルノデゴ安心ヲ。運悪ク貴女ノ腕ガ悪ケレバ、ソレモ『フォロー』シマショウ"
(私の力が、合わさってなかったのだ。私の腕は、ドラグヌフがフォロー出来ないほど腕が悪かったのだ。いや、簡単に増長してしまう心の弱さ……)
負けを認めたアリエスの目は完全に光を失い、死人の目になる。
そして巨大ロボットの目からも火が消えた。
――この姿のまま、敵兵士の慰み者にされる事だって、ある。
むしろその覚悟が必要だ。
こうなっては、絹の下着姿が、あられもなく、はしたなく、寒々しく感じる。
すぅっと、アリエスの目の前が真っ暗になっていく。
(ああ、私、ここで気を失うのですね。本当に情けない……。気絶して、目が覚めたら、慰み者になっているかもしれませんわ。でも、これが敗者の定め……。異世界転生したのは、敗者になり、身体を穢される為だったなんて……)
アリエスの意識は遠のいていく――――。
「こんな負け、私、絶対、ぜっったい、認められませんわ――――――――!!!!!!!!!」
いつの間にか、我を取り戻したアリエスは、何かに怒り狂い、叫び声を上げなから、コックピットの座席に咬みついている自分自身を他人視点で視ている事に気付いた。
その事に気付いた途端、体から離れられない魂の様にアリエスの意識は自分自身の体に引き戻されていく。
アリエス自身が敗北を認めても、アリエスに流れる『高貴な吸血伯爵令嬢の中の血』が、敗北を拒否していた……。
「スキル、『魔力逆流』!」
この技は、アリエスは学んだことがない『種族スキル』である。
学んだことの無い技を極限状態が使用可能としてしまったのだろうか。
アリエスが座席に咬みつき、血を吸うのではなく、自らの魔力を魔素に逆変換して巨大ロボットに注入していく。
巨大ロボットの目に光が再び点る。
「スキル、『絶対服従』!!」
この技も、アリエスが知らない筈の『種族スキル』である。
仮想現実空間に繋いでいないにもかかわらず、巨大ロボットの操作を可能としていく。
敵が慌てて再度戦闘態勢を取るが――。
「『零距離・次元抜刀術』!!!」
アリエスは、双子エルフの持つ『光学魔法剣』の内側、零距離で『恒星剣』をアイテムボックスより、左腕で取り出す。
利き腕の逆腕での抜刀は一度も試していない為、勢いだけのぶっつけ本番。
『恒星剣』は、所有者の怒りに怯え、『恒星ジュリス』だった頃の記憶と青白い炎を取り戻す。
「『零距離・恒星剣』!!!!!!」
アリエスはその勢いのまま、双子エルフの『巨竜機人』に『恒星剣』を超至近距離から、利き腕でない逆の腕で、不恰好な持ち方で、気迫だけで叩きつける――――。




