20.決戦!(1)
前回の出来事: クロマグロ号は検問船に見つかって追われている。
「操者『アリエス』と『竜血人形ドラグヌフ』、発進します!」
港の発射台から飛び出した、巨大ロボット。
『戦闘モード×3』に与えられた時間は2分、既に10秒が経過している。
~戦闘モード×3 残り110秒~
「『クロマグロ号』の座標を表示」
「表示OK」
アリエスはVR上のモニターに映し出された『クロマグロ号』の座標を把握。
「『次元八艘飛び』で行きますわよ」
「準備OK」
「『次元八艘飛び』!!!」
『次元八艘飛び』はブートキャンプ中に、アリエスと、巨大ロボットが編み出した、連続短距離ワープ移動技である。
他の『竜血人形』乗りと違って近距離武器の『剣』を主武器として戦い方を習得する必要があったアリエスが、前世の武将、源義経の『壇ノ浦の戦い』の逸話『八艘飛び』から技の着想を得て、巨大ロボットのポテンシャルを極限まで引き出した結果、漸く実現した技である。
「ン゛ァッんっ♡」
艶めかしい嬌声のような声を上げてしまうアリエス。
強G→0G→強Gの激しい連続G変動がアリエスを襲う。
現実世界で掛かるGの変動が大きすぎる為、巨大ロボットの衝撃吸収装置が消しきれないのだ。
「//--自主規制--// //--自主規制--// //--自主規制--// //--自主規制--//♡」
種族耐性でGの連続変動に耐えるが、嬌声の様な呻き声はどうしても抑えられない。
また、本人は、この声を上げている事に気付いてさえいない。
それどころではない衝撃が連続してアリエスの内臓を突き上げるているのだ。
『戦闘モード×3』により、僅かな時間が引き伸ばされ、瞬時の連続短距離ワープとするこの技は、操者にかなりの消耗を強いる為、アリエスの吸血鬼族としての耐久力、集中力、膨大な魔力がなければ決してこの世に生まれる事はなかったであろう。
この間、巨大ロボットの音声データは増え続ける一方であった。
そして、離れた距離に位置していたはずの『クロマグロ号』と『検問船』、そして巨竜機人の間に、一気に割って入る事に成功する。
~戦闘モード×3 残り90秒~
「一時、会話の為、『戦闘モード×3』を解除」
「承知」
「―――――ザザ………ザっ……あ……お嬢様っ、アリエスお嬢様!」
「その声は、ザンド? 無事だったのですね」
「はい、お嬢様、ザンドでございます。こちらは皆、無事――うわっ」「お嬢!」「お姫さん!」「にゃにゃー!」
宇宙通信機の向こう側では、通信機の取り合いになっているのかも知れない……。
「あーあー。お姫さん、そのイケメン(皮肉)は『巨竜機人』なのか? お姫さんが1人で操縦しているのか?」
どうやら、通信機で話す権利をヒルダが勝ち取った様である。
「はい。1人乗りの『巨竜機人』の新型を発見しました。私が1人で操縦していますが、新型ですので無問題ですわ」
「そ、そうか。実は、敵が『巨竜機人』を1機持っていたんだ。ここはお姫さんに任せていいか? まだ候補生と聞いていたが……」
「任せていただいても大丈夫ですわ。こちらはエリート操者候補生、並の操者程度なら、余裕です」
この時、アリエスは過酷な訓練の目標を達成していた事もあり、少々自信過剰に陥っていた。
「なるほど。実は、敵の情報がある。操者は恐らくお姫さんも顔を合わした双子の男エルフ。あの2人は『双頭毒蛇』という有名な、連邦の元か現役撃墜王だ。得意技は情報魔法、隠蔽魔法、隠密魔法、その他補助魔法」
「え、撃墜王級ですの? それに連邦!?」
「……敵が只の共和国軍でない可能性がある」
「……なるほど。承知いたしましたわ」
神代の時代の激しい訓練を終えたアリエスではあったが、さすがに相手が撃墜王級と聞いては過信できないと判断する。
また、正式な戦争相手でない連邦国の関係者の可能性となると、万が一アリエスが敗北した場合、アリエス以外の面子の命が保証されないかもしれない――――。
「――問題無いですわ、と断言したいところでしたが、念の為、私が敗北した場合にも備えて欲しいですわ」
「それはもう考え済みだ。お姫さんが敗北したら、『クロマグロ号』は、お姫さんを囮にしてトンズラする」
「そんな!」「お頭!」「姉御!」「にゃにゃ!」
ヒルダ以外の船員達が抗議の声が一瞬上がるが、それ以上の声が上がらない事で、皆が内心、「それしかない」と考えているのだろう。
「お嬢様、船長、その場合は私とグレゴリの2名は下船して、どこまでもお嬢様についていきますよ」とザンド
「了解した」
「もちろん、貴方たちは私と、どこまでも一緒です」
「では、剣を交える前に一度、敵と交渉をしてみましょう」
「なるほど、今なら、交渉の余地は生まれているな。お姫さんが直接交渉するか?」
「私が交渉しましょう。そちらとも回線は繋いでおきます」
「交渉頼む。回線了解」




