１６．趣味。
前回の出来事： 巨大ロボットと血の契りを結んだ。
「これで、貴方と私の血の契約が結ばれた事になりますの？」
「全権限ノ全開放ヲ完了――ソウダ。ヨロシク頼ム、我ガ主ヨ」
とうとう、二人の間に『血の契約』が結ばれた。
しかし、何処と無く巨大ロボットの口調に慇懃無礼な雰囲気を感じるアリエス。
「どうして下僕になってからの方が、偉そうな口調に感じるのかしら？」
「ドウヤラ、素ノ状態ノ我ガ出テシマウヨウダ。心カラ下僕ニナッタ証ダロウ」
「そうなのですか……」
「我ガ主ヨ、小サイ事ハ気ニスルナ」
そうは言われても、何だか釈然としないアリエス。
（それにしても。先ほどの私、我を忘れて吸血行為に夢中になってしまってましたわ。……思い返すと、かなり端ない科白の数々でドラグヌフに言葉攻めの様な事をしてしまったかも……。//--自主規制--//だとか、//--自主規制--//だなんて、恥ずかしい。この世界では１４歳の女の子なのにあの様な言葉遣い……顔が熱いです）
アリエスの顔が茹蛸の様に真っ赤になる。
もちろん、本人が知らないだけで、言葉攻めだけではなく、とても良い子の皆さんにお見せできない淫らな痴態を巨大ロボットに晒してしまっていたのだった。
……最後は羞恥心が勝り、頭に辛うじて残っている言葉攻めの醜態については、一切を記憶から消し去る事にするアリエス。
（――ふぅ。今度、吸血する時はこんな事にならない様、気をつけなくては）
何とか顔の熱が取れてきた吸血鬼族の少女は、次回も懲りずに吸血行為を行なう心算のようだ……。
「ところで、貴方の操作方法を簡単に教えてくださる？」
アリエスは気を取り直して、操縦方法のレクチャーをしてもらうことにする。
そうして、巨大ロボットからレクチャーを受けたアリエスは衝撃を受ける。
「何故、どうして、私が『全裸』にならないといけませんの！？」
「当然ダロウ、接続度ガ全ク変ワッテクルカラナ」
巨大ロボットによると、操縦する為には、『１．まず全裸になる。２．操縦席に座る。３．操縦室に魔素を充填する。４、ケーブルをいくつか繋ぐ。５．操縦が初めての場合には初回講習を受ける。』という手順が必要になるらしい。
『巨竜機人』と異なり、魔素やケーブルを使い、より密接に操縦者と機体を接続する必要があるという。
「い、イヤです、全裸だなんて」
「我ハ機械ダ。気ニスル事ハ無イ」
「そ、そうだとしても、なんだかいやなのです。まるで完全無防備みたいで……」
「シカタナイ、下着ヲ許可シヨウ」
「下着は大丈夫ですの？」
「シカタナイ、ギリギリ大丈夫カモシレナイ。出来ルダケ我ガ主ノ希望ニ応エルノモ我ノ務メ」
「あ、ありがとう。でも、『許可』って何だか、ドラグヌフの方が上の立場みたいですわね……」
何とか、下着着用を認めてもらい、胸を撫で下ろすアリエス。
「下着ハ、先ホドノ『スキャンデータ』ヲ元ニ、コチラガ提供スル。モウ準備デキテイル」
「……」
コックピットの右側から飛び出してきた箱に、若干淡く青味掛かった白の下着の上下が入っている。
「コレヲ着用シテクレ。素材ハ天然物ノ絹ダ。宇宙空間デハ超貴重ナモノダガ、コノ素材以外デハ（我ノ趣味ニ）支障ガデテシマウカラ仕方ガ無イ」
絹の下着は巨大ロボットの趣味であった――。
「ヤケに凝った刺繍ですのね。それに妙に丁寧な造り……」
「ソレホドデモナイ。普通ダ」
「目を閉じておいてくださる？」
「我ハ機械ダガ？」
「……貴方はどこから私を見ているの？」
「正面と左右ニ『レンズ』ガアル……ソウ、ソノ場所ダ」
正面と左右をジト目で睨み回す、アリエス。
「分カッタ、『レンズ』ノ蓋ヲ閉ジテオク」
巨大ロボットの目が閉じられたことを確認し、急ぎ着ている物を脱いでいくアリエス。
搭乗室に衣擦れの音だけが響く。
アリエスは気づいていないが、コックピットのレンズ以外のセンサーが全て、何かの膨大なデータを記録し始めていた。
『オオッ』
音声としては出力されない巨大ロボットの賞賛の声が上がる。
その時、アリエスの心の中は、巨大ロボットから渡された下着の思いがけない高品質さに驚いていた。
（普段つけている物より、サイズがピッタリ。付け心地もいつもの専属の商会製のモノより、とてもいいですわ。これ、後でもっと作ってもらえないかしら……。絹を商会に取り寄せさせて……。知り合いの令嬢、奥様達に売りつければ……？）
巨大ロボット製下着の着心地の良さを内心絶賛し、皮算用が始まっていた。
「準備できましたわ」
顔を真っ赤に染めながら、努めて事務的な声で、巨大ロボットに報告するアリエス。
ふるふると、恥かしさから小刻みに体を震わせ、自らを抱きしめる。
とても神聖で尊い姿であった。
『素晴ラシイッ、我ガ主ッ！』
この瞬間、巨大ロボットは、己をこの世に生み出した存在に感謝を捧げる。
それから、続けて、アリエスの両親への感謝も忘れない。
「デハ着席シテクレ。魔素ヲ充填シテ、接続シテイク」
「……くっ、承知いたしましたわ」
