10.小惑星。
前回の出来事: 検問船を撒くために途中ワープアウトを決行した。
亜空間の長いトンネルを抜けると岩壁であった。
「ニャニャさん!?」「ニャニャ!」「にゃにゃー!?」
小惑星が巨大な壁となり、『クロマグロ号』の目前に迫る。
必死に回避するニャニャ操縦士。
間一髪、衝突寸前のところで何とか回避したのだった。
「ふーっ、危なかったな。まずは航海図を出せ。何処に出た?」
何事もなかったかのように、航海図で現在地を確認しはじめるヒルダと船員たち。
その中でアリエスとザンド、グレゴリの3人は静かにお互いの命の無事を祝い合っていた。
「どうやら狙い通りの小惑星帯に出れたようだ。流石はニャニャだな。運も持っている。後はあいつらが運を持ってない事を祈ろう」
「ヒルダ船長。因みに、運がない場合にはどうなるのでしょうか?」
「アタシが聞いた話では、爆発寸前の恒星の中や、かなり離れた別の銀河に飛ばされた事例があるそうだ。それから確率的には、別の宇宙に飛ばされる確率も0コンマ数%あるらしい」
「ひぇっ……」
少し興味を持ち質問したが、すぐに質問したことを後悔するアリエス。
「奴らがワープアウトしてくるのを見張っておいてくれ」
「へい、姉御」
「向こうの操縦士の腕からすると、出現時間は10分もズレない筈だ……」
「さて、アタシらはどこに隠れるか……。隠れるのに丁度良い小惑星があるといいんだが」
その時、アリエスの吸血鬼族の感と視力が、視界の隅に何かを捉える。
「ニャニャさん、あそこの小惑星に近づいてくださらない?」
「ん? お姫さん、何か見つけたのかい?」
アリエスが見つけたのは、なんと――
「ドック(船が付けれる場所)があるな。お姫さん、あの距離で、肉眼でこれを見つけたというのか? 改めて、凄いな、吸血鬼族という種族は……」
アリエスが見つけたのは、宇宙船が入港できる、人工物的な港だった。
実は「良く見つける事が出来たものだわ」と、アリエス自身も驚いていたのだが……。
『クロマグロ号』がドックに近づいていく。
「見事な港だね……一体どこのどいつがこんなところに。暫く、ここに隠れているとするかい」
「まだ、奴らは出現していないのかい?」
「反応は出てないっすね」
「思ったよりも遅いね……」
明かりを極力落とした船橋で、何故か音量も落として相談しているヒルダと船員たち。
アリエスはこの小惑星が気になっていた。
「私、少し船を降りて、港の奥を見てきたいのですが」
「そうか、お姫さん。あんた、吸血鬼族なら気になるか。――宇宙服もいらないか。お姫さん、吸血鬼族はどれくらい、宇宙服無しで平気なんだい?」
「個人差があります。私は2時間くらいでしょうか」
「2時間!? ……そりゃ凄い。宇宙服着けてるのと殆んど変わらないじゃないか。この通信機を持っていきな。アタシが合図したらすぐ船に戻ってくるんだよ」
「噂には聞いていたけど、吸血鬼族は探求心とやらが旺盛なんだねぇ……」