ゴシップ記事
短めで、本編に採用するか迷った話です。
内容的に、すこし薄いかなと思いましたので、こちらに載せます。
もしかしたら、大幅に改変して、本編として採用するかもしれません。
ここ数年で、SNSを利用する人口が増えると共に、有名人とそれ以外の一般人との差が曖昧になってきたと思う。
何故、そんな事を思うかと言えば、昔から新聞やテレビでは、芸能人や俳優のスキャンダルが絶えず報道されてきたが、近年では、ネットで活動する有名人が、地上波や紙媒体でゴシップを報じられるようになったから。
これまで、ネットで活動する有名人は、どこまで行っても芸能人に近い『一般人』という認識が強かったが、新聞や雑誌、テレビの視聴数が落ち込んでいると叫ばれる一方で、SNSを利用する人口の増加や、動画サイトや配信サイトの影響力が大きくなったことで、マスコミが、それらを取り上げるようになってきたと思う。
(これ、私の配信?)
ニュースサイトを見ていると、私の配信映像の切り抜きが、記事のサムネイル(表紙画像) になっている。
『新進気鋭の美少女配信者、登場! 謎に包まれた、その正体とは?』
内容を見てみると、憶測で補完されているのか、間違った情報が掲載されている。例えば年齢の項目などは『未成年だと思われる』と記載されていたり、推定月収は、過去の配信での投げ銭の合計金額が書かれている。
ちなみに、年齢についてはSNSでもライブ配信でも、ネット上では言及した事は無い。
(そもそも、取材なんてされてないんだけど……)
記者の名前は、書かれていなかった。
そのサイトが、個人だったり知名度の低い会社であれば(それで許される訳ではないが)、まだ心情的に納得できる部分はあるが、その記事を掲載するサイトは、紙媒体で雑誌を出版している、そこそこ大手の運営会社だった。
(本名で抗議する訳にもいかないから、別にいいけど……)
個人的に問題なのは、この記事が『冷 配信者 プロフィール』で検索すると、検索結果の一番最初に来てしまうことだろう。どこから調べたのか、東京で頻繁に目撃情報があり、と書かれており、東京在住の可能性が高いと、書かれている。
所々で、私が発信したSNSでのメッセージを引用しており、虚実を織り交ぜた狡猾さが垣間見えている。
「本名……か」
知名度が上がってきた。それに伴って、有名な企業から仕事の誘いがあるが、それは受けられない。
理由としては、例えば金銭を受け取る場合に『口座』や『領収書』の名義人として、本名の記載を求める場合があると言う事。
(個人事業主として開業しようかな?)
個人事業主として開業届を出せば、屋号の名義で、銀行口座が作れるし、自営業として扱われるので、無職ではなくなる。全てではないが、部屋を借りるにしても、審査で無条件に落とされる事もなくなると思う。
「屋号は何にしよう」
この場合の『屋号』とは、会社やお店などで言う所の、社名や店名という意味である。個人事業主として開業すれば、この屋号の名義で色々な事ができる。
――十分後。
考えてみて、自分のネーミングセンスに愕然とする。
例えば『スタジオ冷』とか『Cold 企画』など、全くと言っていいほど、しっくりこない。
では、ひとつの名前みたいにしては、どうだろうか。
具体的には、苗字みたいに聞こえて『冷』に続く屋号とする。ぱっと思い付くのは『桜庭』か『涼崎』という苗字が思い浮かんだ。
「まだ、今のままで良いか……」
悩んだ末に、結論を先伸ばすことにする。
いずれ、必要になる時が来るかもしれないが、今はまだ、配信サイトからの収入のみで、困るものでもない。
作ったとしても、むしろ今より更に知名度が上がった時、税務申告関係で、税務署などから目を付けられる要因となる可能性も、あるかもしれない。考え始めると、際限がなくなってしまう。
これ以上は、悩んでも仕方ないので、別の事を考えることにする。
「……次の配信、何しようか」
ネタ切れという訳ではないが、どうしても配信がワンパターンになってしまうので、そろそろ新しい事を試したいと考えている。
仕事をしなくなり、部屋でシルフを撫でながら、一人で考え事をする時間が増えた気がする。
それも悪くはないが、仕事が無ければ、人と関わる頻度が極端に減るのだと、最近は実感していた。