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エピローグ

 六


 三国一の大馬鹿者の三国のうち、日本だけ人口規模が違い過ぎて笑う


 もう何年振りか分からない信任投票ではない会長選挙ということを知っていた生徒は少なく候補者が二人登壇したことで会場はざわめいた。

 選挙管理委員会の進行で二人の紹介がなされ、現職の立会人の応援演説から始まる。現職の立会人も現職も無難なことを話しているだけだ。立会人は「彼の人柄は……」とか「生徒会に一年の頃から関わって……」とか話して、現職は「私が生徒会長になったら……」とか「この学校の特徴は……」とか前回の選挙でも聞いたことがあることを言っていた。どうせ自分が当選するだろうという慢心が見え透いていて鼻持ちならない。まあ、殆どの生徒が話半分にしか聞いていないのでこのくらいでいいと思う。良くも悪くも変化を嫌うウチの校風では現職に投票する気の生徒のが多いはずだ。どれだけそれを切り崩せるだろうか。

 きーくん。長良。

「次は鍬柄長良候補版です、鍬柄候補の立会人、佐々紲さんは応援演説をお願いします。」

 司会に促されてきーくんは壇上の椅子から立ち上がって演説台に立ちマイクを調節し、一礼する。

「皆さん、こんにちは鍬柄長良の立会人を務めます佐々紲です。」

 そんな自己紹介を流暢に行い、澱みの無い演説が始まる。

「私はこの演説で彼の為人だとか政策だとかそういったものを話す気は全くありません。

 何故ならそんな事を話して生徒会長になることが彼の目的ではないからです。

 では私が皆さん、生徒の皆さん、教師の皆さん、あなたたちに話したいのは何か。

 それは生徒会の怠慢、生徒の無関心、教師の傲慢です。

 私はそれをきちんと認識してもらいたい。」

 尋常ではない声の調子で、攻撃的な言葉を投げ出したきーくんに注目が集まる。

「皆さん、生徒会の規則を正確に知っていますか?

 知らないでしょう。

 私も知りませんでした。

 何故か。

 それは調べないと分からないからです。

 一部は生徒手帳に載っています。

 しかし、それは全てではありません。一部抜粋です。

 では、何が問題か。

 手帳に書かれているのは学校側にとって当たり障りの無いことしか書いていないからです。」

 きーくんの演説を聞き、数十名の生徒が制服のズボンから手帳を取り出して確認を始める。

「今から、ここに書いていない生徒会が出来る事をまず説明します。

 一つ、生徒会は職員会議で決まった学校生活に関することに意義を唱えることが出来る。

 一つ、生徒会は事前に通知した場合、何時でも生徒総会を招集することが出来る。

 一つ、生徒会は生徒総会で出た意見を職員会議に伝えることが出来る。

 そして……

 一つ、生徒会は議会を招集しなければならない。」

 きーくんは強い声で言い切る。生徒は議会という言葉に疑問符を浮かべる。

「まだまだありますが、これくらいにします。

 何故、こんなに重要なことが抜けているのか。

 そう議論したいところではありますがそんなことよりも重要なことがあるので行いません。

 私は何故これを生徒が知ることとならなかったのか。

 そのことついて考えたいと思う。

 今、上げた事はすべて生徒の意見を学校運営に反映させるための条項だ。

 臨時の生徒総会、常設の議会、これによって生徒は生徒会、職員会議の両方に意見出来る。

 そういった重要なことを知らないからか、議会なんて招集すらされていない。」

 校長や現職のような間の抜けた高説では無く、力のこもった演説にみんなの目は向いている。普段なら半分の耳目を集めることが出来ればいい方なのに……。

「つまり、どういうことか。

 学校は生徒の意見を聞く気が無く、

 生徒会は責任を持つ気が無く、

 生徒は関心が無い。

 そう言うことでしょう。」

 きーくんは冷たく言い放つ。

「誰が悪いとは言いません。

 しかし、これだけは言える。

 意見を言う環境をもう一度作ろうというのならば、私たち生徒の意識が必要という事です。

 私たちが自分達自身で学校を治める行動です。

 それが出来なければ誰が生徒会長になろうと変わりません。

 だからこの選挙自体は意味が無い。

 どちらが会長になったとしても私たちがそのままなら何も変わりません。

 しかし、私たちが意識を変え、行動を起こした時絶対に変わります。

 その時、どちらの会長を担ぎたいか。

 この選挙はその程度の意味しかありません。

 では、これで私の応援演説を終わります。」

 きーくんはそう言うと軽く頭を下げ、自分の席に戻って行った。

 体育館の中はまだ蒸し暑く気持ち悪いのに、冷え切った雰囲気に包まれる。頭もよく、プライドの高い生徒が多い進学校だ。みんなきーくんの演説に思うところがあるのだろう。みんな目が違う。

 現職の生徒会長は目を伏せって神妙な面持ちだ。

「えっ、ああ、はい。次は会長候補の鍬柄長良さんの演説です。鍬柄さんお願いします。」

 進行役の選挙管理委員も何だか声が上ずってしまっている。予想外の雰囲気に驚いたのだろう。無理もない。

 長良は紹介を受けて席から立ち上がる。

「はい。こんにちは。紹介にあずかりました鍬柄長良です。

 えー、立会人の佐々君にはなかなか強い言葉で激励を貰いましたが、

 私はこれからの事を話したいと思います。」

 このみんなの注目の中、普通に話を始めることに長良は成功した。

 このまま優しく語りかけてほしいものだ。

「私が生徒会長になった暁には少なくともこの二つの事をするとここで誓わせていただきます。

 一つ、議会の招集と生徒会規則の周知徹底。

 これは現在の生徒会が怠っていたこととして次の生徒会でフォローしていきます。

 皆さんの意見を聞く環境を作ることに邁進してまいります。」

 これは当然だろうという雰囲気で生徒に受止められる。特に強い反応も無い。

「一つ、部活連の解散。」

 長良はユウの出した案を力強く言い放つ。

 すでに知らされていた部活連の生徒以外は驚愕の色を滲ませ、近くの、部活連に所属する生徒の顔色を窺う。

 今まで目を伏せるだけだった現職の会長も驚いて長良の方も見ている。部活連から送り込まれてきた会長候補自身が部活連を解散させるとは夢にも思っていなかったのだろう。

「部活連の解散。部活連とは生徒会に働きかけるために作られた生徒のグループですが、

 議会が常設され、総会も多く開かれるようになったら必要のないものになります。

 だから、無くしてしまっても問題ありません。

 これは部活連にも了承を得ています。」

 流石にそこまで準備していったとは思われて無かったらしく会場はざわつく。

「皆さん。

 私はこの二つの事を誓います。

 しかし、私の立会人の佐々君の言った通りでもあります。

 生徒全員が意識を変え、行動を起こさなければ、私が何をしようと何にもならない。

 ご清聴ありがとうございました。短いですがこれで鍬柄長良の演説を終わります。」

 長良はそう言って席に戻る。

 どの候補よりも短かったが、一番インパクトは残すことが出来た。

 よし、よかった。

 勝てるかどうか分からないけれど、爪痕くらいは残せたんじゃないかと思う。

 進行役は壇上から会長候補を下して、副会長候補を登壇させる。

 みんなもう副会長なんてどうでもいいという雰囲気だ。

 私は現職の会長に似た副会長候補の緩い演説を仕方なく聞きつつ、達成感を噛み締める。


 七


 終わりよければすべて良し、終わり悪ければすべて悪し。


 選挙は即日開票され、放課後には『鍬柄長良』の名前の上に花の付いた紙が掲示板に貼られることとなった。部活連の集まりに行った長良ときーくんはどういう気持ちでこの結果をむかえたのか。対抗馬であった現職の会長はどう思うのか。解散させられる部活連はどう思っているのか。完全に門外漢が入ってくることが分かった生徒会執行部は何を思ったのか。

 そんな事の全く分からない探偵事務所で私は結果を再度噛み締める。

 普段は選挙の結果速報なんて全く気にしない生徒もちらほらと見に集まっていたことがこの選挙が異質だったという事なんだと思う。

 ……これからが大変だな。あの本の事を二人に教えておこう。

 私はバイトもあるし、どっぷり関わり続けるのはむりだけれど焚きつけたからには無関係ではいられないだろう。腹をくくるしかない。

 私はそんなことを思いながら数日来ていなくて汚れた事務所の掃除を始める。今日は掃除だけで終わりそうなくらい汚い。

 もう六時半だ。

 私は取り敢えず片づけを休みスマホを起動させる。今日中には無理そうな汚さだ。何故数日でこんなに汚れるのだろうか。書類はバラバラだし、犬や猫の毛は舞っている。明日は振り替え休日だし、昼頃から来たら何とかなるだろう。

 きーくんからSNSでメッセージが来ている。

 私は選挙のお礼かと思って開く。

『ごめん。余、大変なことになった。会わせられない。』

 ……どういうことだ。

 私は自分の机の前で立ち尽くす。


お付き合いありがとうございました。感想等よろしくお願いします。


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