■6-1:情報はカネになる
「町長、コレ、読めるか?」
帰宅し、タチアナを寝かした後、早速町長を呼び出した。
「なんじゃ、最近は呼び出すのが増えたの」
「悪い、今日はとんでもないものを見つけてしまったので、ぜひ調べてもらおうと思ってな」
「どれ、見せてみぃ。……ふむ、これは石英メモリじゃの」
「やっぱりか。それは俺もわかった。読めるのか?」
「何を読みたいんじゃ?」
「何をって……このホログラフィックメモリだが、映像だけは見えるが音声は無かった。音声は再生出来ないのか?」
「音声データもきっとあるはずじゃぞ。ちょっと貸してみ」
町長にメモリを渡そうとし、そもそも触れられないのでは?と思い至る。
そう思った事が伝わったのか、町長が俺の後ろを見るようにジェスチャー。
振り返ると、そこにキャタピラのついたピラミッドが居た。
そうとしか形容できない形状のマシーンだ。
町長は側面の一部を指差して俺に言った。
「ヒデキ君、この部分のゴムキャップを外して、メモリを差し込んでくれ。そ~っと優しく頼むぞ」
「向きに決まりはあるか?」
「向き?どういうことだ?」
「無いなら良い。差し込むぞ」
「んっ……」
ジジイの嬌声ほど嬉しくないものはないな。
メモリを差し込むとすぐに、ピラミッドの頂上から光が沸き立ち、3段に重ねられた映像が映し出された。
一番上は、見慣れた五線譜の楽譜だ。
二番目にあるのは、俺が縦穴で見た、たくさんの人々の映像だ。
三番目は……文字化けのような意味不明の文字の羅列があった。
それらのデータが、透明な紙に書かれているように何枚も重ねられて表示されていた。
町全体がスラムのような見た目だったので、町長以外で未来感を感じられた事に感心した。
分かったこととして、一つのメモリに対し、データ領域、ホログラフィック領域、レーザー刻印領域が重なるように配置されており、データ領域については鍵情報がないとデータが読めないようだ。
この、おそらく演奏会のデータであるメモリも音声部分については読む事が出来なかった。
「つまり今は水晶の中のフィギュアのような絵を楽しむか、空中にレーザーで投影して楽しむくらいしかないのか?
「そうじゃの。この演奏映像のデータ部分は恐らく、音声などが入っていたのであろう。コーデックが分からんので今のままじゃ再生は無理じゃ」
「容量から考えて5.1chなんて目じゃなさそうだな」
「しかしこれらのメモリは興味深い。ワシに買い取らせてくれんか?借金は全て賄えるし、旅の準備金も用意してやろう」
「悪いな。助かる。やっぱり、いつの時代も情報は金になるもんだな。しかしこの猫耳の奴だけはダメだ。コイツはウチに飾るんだ。」
言った後にふと思って、聞く。
「なぁ町長、このメモリを読み込める機械、もっと無いのか?1台欲しいんだが」
もちろん猫耳メモリを読むためだ。個室で、じっくり。
「ある訳無かろう。ワシがデータを読み終えたら貸してやっても良いぞ」
「どれくらいで読み終える?」
「おぬしから今渡された分、先程聞いた遺跡に残っている分を合わせて1年程度かの」
「長ぇーよ」
まぁどこかにメモリリーダーくらいあるだろう。無ければ作ればいい。
その場で直接売買し、借金の返済と個人カードに差額が入金された事を確認し、町長と別れた。
遺跡に残っている残りのメモリは町長の名前で所有権を取り、明日以降に探索者を雇って回収するのだとか。
今日俺が採掘した筒を狙って、明日はほかの探索者が第2層に殺到するだろうが、残念、それは全部町長に予約されている。
これも公共事業なんだろうな。町長の私的欲求なのに。
しかし借金が消えたのはいい事だ。
豪運先生……いい仕事したぜ。
心の中で親指を立てる。
金策は出来た。後はタチアナを説得するだけだ。
自宅に戻ってタチアナと夕食を食べながら、今後について話をする。
「ヒデキ、救出費用の返却って計画はどうなってるの?私に何か手伝えることはある?」
「それがな、タチアナ。今日見つけた分で借金は全部返し終えたんだ。それで、これから旅に出ようと思ってる」
「……え?借金って400万くらいあったと思うんだけど。返せたの?って言うか旅ってどういう事?」
「今日お宝を見つけてな。この世界の謎を解くために、色々な事を調べる必要があるんだ」
「……ヒデキが14歳だから、自分に特別な力が宿るとか、急に世界を救いたくなるとか、そういう病気になるのも分かるよ。でもそれは一時的なものだから、後から黒歴史になる事も分かってる。ヒデキ、だから、ね?旅に出るとかやめよう?まずは病院にいって治療を受けよう?堅実に仕事をして、安定した生活を送ろう?」
何か勘違いしてらっしゃいませんかね。誰が中二病だ。そんなんじゃない。そういうのもあるかもしれないけど、そうじゃない。
「違う、誤解だ、違うんだ。……そうだな、読みたい本があるんだが、この町にはなさそうだ。何せ生まれてから一度も見たことが無いからな。だから、それを探しに行きたいんだよ。それだけだ」
疑いの目線は消えていないが、本と言うワードでピクリと反応したタチアナ。
「そう……ね。怪しいけど信じてあげる。一度も見たことのないものを探しに行くっていうのもだいぶ怪しいけど。本かぁ、それなら私も興味があるな。ね、当然連れてってくれるんだよね」
「もちろんだ。準備するぞ。来月出発だ。当分帰って来れないぞ。」
「わかったわ、どうせそんなに家に荷物はないんだもの。すぐに準備は終わるわ」
「ですよね……ごめんな貧乏で」
「気にしないの」
旅立つ前にやっておくことは沢山ある。
荷物が少ないと言っても持っていけないものは山ほどあるし、
この町で前世の記憶をもって何かをすると言う事も今のところ考えていない。
ただ、圧倒的に技術力が無い。
この1か月で、この町の知識を可能な限り習得する。
若い脳みそと中年のやる気があれば、砂漠に水を撒いたように知識を吸収できる。…はず。