■30-1 あれから
実家から新しい家への荷物の移動を進めている中、ふとため息をついた。
部屋には机が一つだけ残っていて、月で撮影した皆の集合写真が立て掛けられている。
「もう、3年経ったんだよな」
一人でぽつりと呟く。
旧人類の侵攻。
あれから3年が経っていた。
「アレからは、本当に激動だった。もうほんと、戦後処理って大変だ。もうやりたくない。戦争反対」
俺達はアサクシティの一角に家を建てて、そこに住む事にした。
田舎ではあるが、やはり地元が一番落ち着く。
家の周りは根野菜を植えるための畑に囲まれており、カラロイド達がどんどん開墾している。
このあたりはもう砂漠ではないのだ。
だがまだ何百メートルか先は土交じりの砂漠になっている。
これからどんどん畑が広がっていくのだろう。
昔とは違ってティコから貰ったリフターがあるので、アキバまで3分だし、アサクシティに設置したゲートを通れば、月経由で沖縄まででも10分で着く。
だから利便性の問題は皆無だ。
地球の環境は徐々に戻りつつあり、草木もどんどん育っていってるのがわかる。
ティコが散布したウィルスに加えてナノマシンも撒いていたようで、雨が定期的に降るようになった。
また、廃墟のコンクリートが分解され、土のような見た目になっている。
現代の建物に影響が無いので、旧時代のコンクリートの配分等に反応しているのだろう。
見た目で分かる速度の変化ではないが、日に日にどんどん瓦礫の塔が小さくなっていっているのが分かる。
さらにあと10年15年すると木が生えてくるだろうな。
ニライから見た地球は、まだ茶色が多いがだんだん青みが差しているのが分かる。
酸素の増加に伴い、豚や牛といった生き物が大きくなって味が良くなるにはまだまだ時間がかかるようだが、ニライと大気組成が同じになって時点でニライから拝借した家畜類を一部育てているので、食糧事情はどんどん改善していくはずだ。
虫の収穫量に比べるとごくごくわずかだが、酸素量が増えて一匹あたりの収穫量が増えれば逆転するはずだ。多分。
また、月からニライを経由して様々な建設機械が送られてきた。
各都市を結ぶ道路が整備され、車のような交通を目的とした乗り物がどんどん増えている。
シンジュシティは水星との交流が大々的に報道され、彼らの常識を聞いて奴隷と言う概念が恥ずかしいものだとしたのだろう。
二等国民の権利が改善されたと聞いた。
ただ、人々の感情が変わるわけではないので、これから長い時間をかけてあの街は変わっていくだろう。
また、リニアも路線の復旧が終わったらしく、地上から最下層への直通エスカレーターが稼動を開始した。
ついに沖縄と東京の交流が始まったのだ。
反対側のウラジオストックには誰も住んでいなかったようで、札幌までの路線で止まっているのが現状だ。
オーサカやコーベ、ダザイフといった町とも交流が始まった。
沖縄からは絵画や音楽といった芸術的な輸出が盛んになっており、東京側からは魔道具といったようなモノの輸出が行われている。
他にも虫のやりとりなどもあるようだが、俺は絶対に関わりたくない。
国会図書館の蔵書は残念ながら全滅していたが、これから作られる本をどんどん蓄積していくと司書が意気込んでいた。
また、月が各町の特別な存在の統括存在だったため、ティコからの命令で彼らが町に縛られる事は無くなった。
とは言え、誰も自由になりたがらないようではあったが。
ヒュースが特別なんだろうなあ。あいつ町を見捨てていた節があるし。
あぁ、あと、マーりんも自身のコピーを町に置いて、本体はアサクシティまで遊びに来ている。
タチアナと仲が良いって、いつの間に仲良くなったんだろう。俺が2年間寝ている間だろうか。
カラロイド達は耐用年数が過ぎたのか、戦争が終わって1年ほどで機能を停止した。
水だけで動くと言っても、空気電池のように使い捨て電池で動いていたようなものだったのだろう。
充電式と言うか、月が木星から受け取った電気を地上にマイクロ波送信されている分の一部を受信して動くように改造したので、今は青空の下でのみ動く事が出来るようになった。
今では俺の家周辺の畑の開墾に勤しんでいる。
実際、作業用アンドロイドだからな。
後、あれから陛下にも謁見できた。勝手に星の方針を決めたことに対してお叱りの言葉を頂いたが、その後は感謝の言葉も賜れた。
ただ、それだけだ。特に何かをもらったとか権力を得たと言う事は無い。
だが、日本人として謁見できた事は本当に誇らしく感じた。
そして、もう俺は貧乏ではない。
アキバのゲーム・ロボットの観光産業をミクと共同で進め、ちょっとした資産を手に入れたのだ。
これからは働かなくても、定期的にちょっとずつお金が入ってくる。
年に数回のゲーム大会も行い、優勝者には月旅行をプレゼントしている。
月への旅行については特に制限を設けてはいないのだが、ミクが利権とか言い出して勝手に制限をかけている。
まぁ、街の中についてはミクが中心になって統治を行っているので俺が口出しすることはないが、気に入った奴が街の外に出れば、こっそり俺から月への招待を申し出ていたりする。
水星とのやり取りも順調になった。
水星とのやりとりについては陛下から俺に一任されており、有効な関係を築くように日々奔走している。
また、ホモ・サピエンスが再び攻めてきた場合の対処についても取り決めが決まった。
海王星にゲートを立てて、最前線基地としたのだ。
太陽系外からの使者を迎え、攻撃してくるようなら自動迎撃システムで対処。
場合によってはまたアキバで国防ゲーム大会が始まるだけだ。
定期的に訓練と称してトーナメント式のゲーム大会も行われている。
あぁ、ゲームの廃人達はちゃんと社会復帰できたんだ。
睡眠時間が短いのが問題だと言うけれど、それは本人達のゲーム時間の調整の問題だからな……。
で、俺はと言うと。
来週は俺とタチアナの結婚式だ。
知りえる限りの人を呼んだ。
前世も含めて初めての結婚式。緊張する。




