■4-2:町長とのお話
「そうか……町長、今が西暦何年か知りたいか?」
輪郭だけだった町長がぼんやり光り出した。
え、何、どうしたの市長。
「それはまぁ、知りたいが、知っているのかね?根拠はあるのかな?」
「根拠は無い、俺の信じられないような話を信じてくれるなら、今は西暦20178年……足す14年だ」
「なっ……!」
「良かったな、自分の年齢が分かったぞ。約17000歳だ」
さっきまでぼんやり光っていた町長が輝きだした。テンションが高くなったのか?
口調まで変わってる。
ちょっと回りの民家の安眠を妨害していないか気になる。
空気を読めと言わんばかりに町長をぺたぺた触る。手はすり抜けるが意図は通じたようだ。
町長の輝きがおさまった。
「17372歳だ。して、その根拠の話を聞かせてもらおうか。何故君はそれを知っている?」
俺は、前世の話、死後の話、それから今記憶が戻っている話をした。
「何とも信じられんが……納得できる部分もある」
「ああ、何せ思い出しただけだからな。それに町長、確認だがあなたは人工知能だろう?」
「人工知能とはちょっと違うが、似たようなものだ。ちゃんと市民権もあるぞ?」
「何だよ市民権って……話は変わるが町長、俺は救出費用は出来るだけすぐに払う。その後、旅に出たいと考えている」
「ふむ、救出費用は分かった。しかし急に旅と言っても何の旅だ?帝都へ観光旅行か?」
「本音は読み損ねた漫画と同人誌のため、建前はこの世界がどうしてこうなったのかを知るためだ。」
「順番逆じゃろうに……しかしマンガトドージンシって何じゃ?どこかで聞いたような……」
「こっちの話だ。ここは浅草だろう?中野か秋葉原か池袋に行きたい。交通手段はあるか?」
「そんなものは無い。歩きだ。ワシが生まれた頃ですら、交通手段なんて無かったぞ」
「へぇ、皆ワープでもしてたのか?」
町長が目を見開く。再び輝きだしたので町長をぺたぺた触る。すり抜けるが。
輝きが収まった町長が続ける。
「よく知っておるな。ヒデキ君の前世はもっと昔であろう?」
「マジかよ……そんなに技術が進歩したのに、なんで衰退してんだ人類。まぁそれも調べに行く予定だ。」
「まずは借金を返してからだの」
「そうだな。ありがとう町長。やりたい事が見つかったし、色々確認も出来た」
「ワシこそ感謝じゃよ。自分の年齢を知れた。ではオマケをやろう」
何かくれるの?
借金と病気と連帯保証人以外なら何でももらうよ。
「何だ?」
「ワシのソフトウェア上の年齢は1673歳じゃ。15699年は眠っていたことになるの」
「つまり、あなたを起こした人が居ると言う事か?」
「違う、ワシは自立的に再起動する機能くらい持っておる。つまり、それ位の期間、ワシが起きられない何かがあったということじゃ」
「……調べることが増えたが、わかった。町長、ありがとう。」
「何か分かったら教えてくれ。ワシは今スタンドアロンじゃからの」
「ああ。今ってことは、通信できたが今は出来ないって事か?それとも今の時間出来ないと言う事か?」
「前者じゃの」
「余裕が出来たら出来るだけ直してやろう。前世では腕を鳴らしたもんだ」
「期待しないで待っとるよ。公共事業扱いにしておく」
「ああ。。そういえば町長って名前あるのか?」
「町の名前がわしの名前じゃ。たとえばここは昔浅草と呼ばれていて、ワシの名前はアサクじゃ。長い時が流れ、人々が再びここに集まって、ワシの名前を伝えたところ、いつしかココはアサクシティと呼ばれるようになっただけじゃ」
「そっか……ほかの町もそうなのか?」
「新宿はシンジュと言う奴が居たのは覚えている」
つまり新宿はシンジュタウン、と言う事だろうか。
野生のモンスターをボールで捕まえそうな名前だ。この町もそうだけど。
後、転生したと言う事ならこれは確認しておきたい。
「なるほど……・町長、後、知ってたら教えて欲しいんだが、俺の魔力って人と比べて変か?例えば何百人分もあるくらい多いとか、回復速度が滅茶苦茶速いとか」
俺が聞いたのは転生特典だ。健康の特典をとっておいたので、回復速度が滅茶苦茶速ければ実質は大魔力と同じだからな。
「おぬしの魔力な……量は確かに人よりは多めじゃが、二人分も無いぞ。回復速度は、、まぁ速い方じゃないかの。とはいえ誤差範囲じゃ。後はおぬしの根性とイメージ次第かの。ミトコンドリアは知ってるか?」
ミトコンドリア……確か細胞の中にあって、ナスとかソラマメのような形の器官だったな。
酸素呼吸に必要、と言うよりコイツが酸素呼吸の本体だ。
大昔に高校の生物の授業で習った。
「ああ、大昔の知識でだけどな」
「いまや人類は魔力を生む。お前たちのミトコンドリアがカギじゃ。蓄積された魔力は体の表面の細胞に集まり結晶化し、太陽の魔石になり、真珠のように徐々に大きくなっていく。太陽の魔石は黒いじゃろ?」
「そうだな。単結晶の太陽電池にしか見えないが」
「ホクロあるじゃろ。そこが魔力の集中する場所じゃ。たいていはリンパ節に出来るの」
「じゃあ老人が真っ黒じゃないのは何でだ。後俺にはホクロ無いぞ」
「ある程度大きくなるとポロって取れるんじゃ。ある程度年をとらないとホクロは出来ん。」
こわっ。かさぶたみたいに太陽の魔石が人から取れるのか。リンパ節って事は首とかわきの下や股間、ヒザの裏から?
じゃあ売られている太陽の魔石のパネルって知らないおっさんのワキから出てきた物もあれば若いお姉さんの股間から出てきた物も混じってるのか。
一枚のパネルの中で繰り広げられる知らない人のつながりに夢が広がる。
「……で、それと魔力の回復が何の関係があるんだ?」
「おぬしらは魔力を制御できるじゃろ?」
「そうだな」
「その魔力を増やすように体に働きかけるんじゃ」
「どうやって?」
「言ったろう?イメージじゃ」
「イメージか」
イメージっていわれてもな。イメージで体の中をコントロールって、あの奇妙な冒険の1部2部くらい特殊な連中じゃないと出来ないんじゃないかな
「イメージじゃ。しかし弊害もあっての。制御に失敗すると体中にホクロができるぞ」
えぇあ?!奇病じゃないか。
しかも今聞いた説明だと、ホクロは単なる着色ではなく、硬質な物体だ。太陽光に反応して出来るわけでも無いから体内にだって析出する。
失敗したら……脳梗塞、血管断裂、神経破壊、嫌な未来しか見えない。
「嘘だろ、俺に出来ると思って言ってるのか?」
「出来ると思うぞ。お前達の祖先は皆出来ていた。しかも・・・確か20世紀はコンピュータが出来た頃で、まだ人間の脳の方がコンピュータより優れていたじゃろ? それならずっとやりやすいはずじゃ」
「そうだな。確かノイマンって大天才がコンピュータを作ったとか」
「そう、ノイマンじゃ。ワシらにとっての神じゃの。つまりおぬしは、まだコンピュータに対して支配的な考えを持っておると見た。」
「確かに情報系の学部を卒業したから、ある程度プログラミングは出来るが、それで飯を食えるほどの腕は無いぞ。どちらかと言うとハードウェアエンジニアだ」
「十分じゃ。今の人類は発掘したモジュールを組み合わせて、分からないものを分からないまま何となく使っているだけじゃからの」
「俺も似たようなものだぞ。町長がどうやって動いているのか想像もつかない。本体はどこだよ、ホログラフィックって事はレーザーか何かで照射しているのか?」
「そこまで推理できるのは、お主位じゃ」
「町民を教育して生活レベルを上げようとは思わないのか?」
「ワシに人間を初等教育する権限は与えられておらん。せいぜい助言レベルじゃ」
つまり権限がある奴も居るのか……そういう奴に育てられた町はさぞ文明レベルが高いんだろうな。
「話がそれたが、体中にホクロができるのは御免だ」
「発想次第じゃよ。のうヒデキよ。イメージせい。お主の体の中に多くの細胞がある」
「ああ」
「それぞれの細胞の中に、核や小胞体、ゴルジ体、そしてミトコンドリアがある」
「そうだな」
「体に命令するんじゃ。強くなれ、効率を良くしろ、とな」
「……それは助言か?」
「結構ギリギリじゃ。おぬしは軍人でもないからの」
「助言として受け取ろう。借金、早めに返すよ」
「期待して待っておるぞ」
そう言って町長は消えた。
借金を返すあてはある。
同時に、これからの方針も決める必要があるな。