■2:じこしょーかい
俺の名前はヒデキ・オオタニ。14歳だ。こう見えても一等国民だ。
妹のタチアナ・オオタニと、ここアサクシティのシタマチストリートで生活している。
地下7層の遺跡の上に建つアサクシティは古くからの歴史を持っているが、遺跡都市でありながら交易の中継地として、シティの名に恥じない規模を誇っている。
生まれてすぐに「シュッセイトドケ」を出す事で国民として登録され、1枚の個人カードが発行される。
これをやらないと国民として町から、そして国から認識されないので、皆必ず出す。
古くからこの地に住まう人々は一等国民、それ以外の人々は二等国民として区別されており、カードの色が違うのですぐ分かる。一等国民との違いは、シャカイホショーの量だって町長から聞いている。
趣味は本集めで、遺跡からたまに見つかる本を、家の倉庫に並べている。物語もあればハウトゥ本もある。たいていが古代文字で書かれていて、 大抵読めて、たまに読めない部分もあるが、絵も沢山あるので見ていて楽しい。
町についてだ。
基本的に遺跡からは多くの遺産が出土するため、遺跡の出土品を狙って多くの探索者が集い、いつしか遺跡の上に町が作られる。
そこで商売をするための証人も居れば、遺跡の周りには畑を広げ、食料品を納めていたりもする。
遺跡にはたいてい一人の特別な存在がいて、人間を排除するタイプか、人間を受け入れるタイプだったりするそうだ。
ちなみに、この町の町長は受け入れるほうのタイプだ。
町長の話をしよう。町長はこの町の特別な存在だ。
見た目は人間だし、すげー白髪でアゴヒゲが腹まで伸びてる爺ちゃんって感じだ。
遥かな昔よりこの地に住まう誰も触る事が出来ない精霊とか霊的な存在だと人々は言う。
色んな所に瞬時に現れるため、町長と話をしたい場合は家の外で町長の名前を呼べば良い。
町長は分裂できるので、同時に何人とだって話が出来る。
分裂するんだぜ、すごいよな。
他の領地では人間が町長をやっている所もあり、そう言う所では話をするにも一苦労だと言うが
アサクシティでは町長と話をするのはとても簡単だ。ただ呼べばいい。
旅人は「クレイジー」と言うが、町長は町長だ。そんな名前じゃあない。
人間じゃない奴にシティを治められると言う事に思う所はあるかもしれないが、触れる事も出来ないから脅す事も出来ないし、お金への執着も無いから賄賂も通用しない。加えて町民の声を良く聞いてくれる。
そういう意味で、人間よりよっぽど清廉潔白な政治をやっており、支持率は非常に高いのだ。
俺も何度か町長と話しをしたことがある。どうして触る事が出来ないのかとか、今何歳なのかとか。
聞いても良く分からなかった。ホログラフィックとかアールティーシー破損とか言われても、それが何なのかさっぱり分からん。
町長の数少ない欠点は、こういう質問は誰も聞いたことの無い専門用語で話すと言うことだ。
でも雑談も好きだし子供には優しいし、良い町長だと思う。
ホントは大人にならないとお金を稼ぐために働いてはいけないのに、町長は認めてくれてるしね。
フクシヒノサクゲンとかジリツジカツとか妙な名前が出てきて、やっぱり良く分からなかったけれど。
だから俺はお金を稼ぐために働いている。
遺跡に行って色々な機械や資材を拾ってきては廃材加工所に売って生計を立てている、探索者というのが俺の職業名だ。
探索者ギルドの中でも見習い扱いだけどな。
親は俺が8歳の頃に死に、妹を守るためにずっとこうしてきた。
妹とは言っても血の繋がりは無い。
俺が8歳の頃に起きた大崩落でシタマチ7層からシタマチ4層までが繋がった時に、ウチの親とタチアナの親が瓦礫に巻き込まれて死んでしまったのだ。
タチアナは当時は7歳で、まだ成人していなかった。
しかも崩落に巻き込まれて半死半生の状態で救出され、治療のために結構な金額の借金を背負ってしまった。
面倒を見る人が居なくて妹は二等国民だったため、このままでは誰かに買われてしまう所を、俺が面倒を見るといって町長にお願いしたのだ。
俺も孤児には違いないが、幼馴染を放って置けるほど落ちぶれては居ない。
この年でも廃材拾いの仕事は出来たので、何とか二人で慎ましく生活している。
妹も働いていて、元々勉強が好きだったと言うこともあり、町長の書類仕事を手伝ったりしているのを見たことがある。
あいつの知識量はほんとにすごいからな。俺の知らないようなことをたくさん知っている。
そんな日常の中でもやはり危険はある。
妹と川沿いの商店で食料品を購入していると、急に川から悲鳴が上がった。
何かあったのかと商店の横から川を覗き込んだところ、モンスターが川から現れた瞬間を目撃してしまった。
体中が鱗で覆われた、巨大な人型の化け物だ。長い尻尾がぬらぬらと光り、垂れてくる粘液が、商店の屋根の布を溶かしていた。
口からは赤い液体がこぼれていて、もぐもぐ何かを咀嚼している。
それを見た瞬間、俺と妹はは自分でも気づかない間に悲鳴を上げていた。
あんな生き物がこの世に存在する事への恐怖と、次に襲われるのが自分ではないかと言う不安、逃げなければと思うが体は動かない。
周りの人は皆逃げている。俺も逃げなきゃ……でも体が動かない……。
そんな時、俺と妹の前にふわりと舞い降りた男が居た。
頭からすっぽりかぶったフード、腕に付けられたゴツゴツした機械。そして杖。
見た目は旅の魔術師のようだった。
「叫んでないで逃げろ!」
男は怒鳴るが、俺も妹も黙りはしたものの足はすくんで動かない。
それを見た男は舌打ちをしながら化け物の方に向き直し、両手を前に構えた。
「Injection-2 and Ignition-1……Run!」
男の手から何かが飛び出したと思ったら、見る見るうちに大きな火の玉になって、化け物の上半身を焼いた。
「Loop-5!」
男は更に火の玉を連射する。
化け物は悲鳴を上げるが、少しずつこっちに向かってこようとする。
「今の内だ、早く逃げろ!」
その声にビクッとした俺は妹の手を引いて、転びそうになりながらその場から離れた。
ある程度離れたところで、取り巻いてみている大人たちに手を引っ張られ、大人の後ろに隠された。
大人たちの足の隙間から、俺と妹は男の戦いを見た。
ひらりひらりと化け物の腕をかわしながら、火の玉を当てていく。
しかし避けきれなくなったのか、化け物の腕が男の体を掴んだ。
もうだめか、と思った瞬間、男が叫ぶ。
「Injection-10 and Ignition-1!parallel-3!」
その瞬間、目の前が真っ赤に染まった。大爆発とともに目の前の大人たちが何人か尻餅をついた。
化け物は、下半身だけ残って、上半身は何処にもなかった。
男は何処に?と思ったとたん、ヒュルルルルと風切り音がしたと思ったら商店の屋根に男が落ちてきた。
屋根の布は破れ、商品をまき散らして、いくつかの卵を割りながらも、男は生きていた。
「大丈夫か……?」
男は血まみれになりながらもこっちを見て声をかけてきた。
妹が言う。
「おじちゃん、血が……」
「あぁ、君が無事だったのなら、こんな怪我痛くもなんともない。ただ、ちょっと一晩介抱してくれると嬉しいな」
「俺が介抱する!あんたは俺の命の恩人だ!」
感謝しつつも嫌な雰囲気を感じ取った俺は即座に声をかけた。
そう言って俺は男をがんばって背負い、宿屋で看病した。妹は自宅待機だ。
感謝の気持ちは本物だったので、俺の好物のダンゴ虫スープも分けてあげた。
男は微妙な顔で喜んでくれた。
今思い返すと、あの男は幼女趣味だったんだろうなぁ。
妹は俺が絶対に守る。たとえ命の恩人からでも!