■13-1:テンプレな絡まれ方
暴力的な表現があります。嫌な人はデバイスで検索してそこから読むと良いです。
さて、人種差別盛んな土地に居てもだれも幸せになれないので、さっさと沖縄に行こう。
……夜はこっちもいいんだけど。
沖縄旅行は2,3回行ったことがある。
うち1回は出張で1か月ほど滞在したので、それなりに都心の方は詳しいつもりだ。
スーパー新幹線とやらが今も動いているかは分からないが、それを調べつつ、他に沖縄に行く方法が有るかも検討しないといけないな。
行動する前に可能性を考えて、ある程度準備をしておこう。
大体3パターンだ。
1:スーパー新幹線は今も動いている。タチアナは二等国民で乗れないので何とかして乗る方法を考える。
2:スーパー新幹線は動いていないがレールは残っているので、代わりの列車を調達して沖縄に行く
3:スーパー新幹線は動いていないしレールも残っていないので、代わりの方法で沖縄に行く。
1が一番楽だが、3だと嫌だな。2が一番あり得るルートだが、さて。
まずは情報収集。2に向けての買い物がてら、町の人々から話を聞く。
分かった事としてはスーパー新幹線は聞いたこともないとか。
1は無くなったな。次。
新宿ダンジョンの入り口にある掲示板の残骸を見つけたので読んでみる。
古代語だから皆読めないため、じっと残骸を見つめている俺を見てヒソヒソ後ろから話し声が聞こえる。
気にしない気にしない。
スマホがあれば写真をとって後から見るんだが、そんな便利なものはこの世界には残っていない。
改めて掲示板を見る。
スーパーこだま、スーパーひかり、スーパーのぞみ、か。なんて安直な名前だ。
リニアモーターカーで本当に沖縄まで繋がっているようだ。反対側は……ウラジオストク。
えぇぇ。
昔の人は暇だったのかね。
ワープじゃ行けなかったのかな。
コストの問題か?距離に応じてワープのコストが高いとか。
あとは旅自体が贅沢な娯楽だったりとか?前世でもVR技術は成長期にあったし、有りうるな。
電車の外を眺めながら飲むビールは美味しいもんな。ありゃ娯楽だ。
とりあえず必要物資を買い込もう。
列車車両が無い場合、リニアってことはコイルというか電磁石や永久磁石のモジュールが必要になってくるよな。
車体を支える建材も必要だ。
リニアレールが残ってない場合もあるので、決め打ちでは買わない。
必要量の計算だけしておこう。遺跡に無いものは買わないといけないしな。
念のため手動のトグルスイッチ、なくなりかけていた生体適合ハンダに高速スイッチング回路のためのタイマーICを購入。リュックの中でジャラジャラしている。
そして見つけました。新宿御苑の草原で見つけて、ずっと心待ちにしていたもの。
そう、豚肉である。
ポーク!ポーク!ポーク!
生姜焼きが俺を待っている。
10g600円と滅茶苦茶高かったけど全然気にならない。
普段食べてる10g60円の合成肉の10倍ウマい事に、もはや疑いは無い。
バラ色の未来が俺を待ってる。200g購入。
豚肉は寄生虫が怖いので早めに焼いて食べよう。未来の寄生虫とか脳味噌直行便か、卵がくぱぁして出てきた虫が頭に張り付いて幼虫を産んで肋骨バーンで無事誕生のイメージが強いな。
ぜひ狩人異星人の成人の儀式で狩られて欲しい。
そうして買い物を続けているが、さっきの掲示板の残骸からずっと後をつけてくる奴がいる。
視界の端にチラチラ映って目障りだ。とっとと撒いてしまおう。
……とまぁかっこいい事言っちゃったが、そんなスキル無いし、そういうシステムでもない。
つまり……
いつのまにか裏路地に迷い込んでしまっていた。
しまった、やっちまったかな?と思った瞬間、上からぬっと手が伸びてきて、豚肉の入った袋を奪った。
そのまま中の豚肉をモッチモッチと食べている。
あ?
何してくれてんの?
俺の生姜焼き。と言うか生肉で食ったぞ。
般若の顔で振り返る。
「げぷっ。ふうん、結構良い肉じゃねーか。こんないい肉を買うんだ、金あるんだろう?出しな」
杖を持った男が言った。いや大きいな。大男だ。
後ろからぞろぞろと4人ほど取り巻きが現れた。目の前の大男の仲間か。
取り巻きはともかく、大男は大きいなあ。身長220ミリはあるんじゃないだろうか。
俺の身長よりも50ミリも高い。まるで子供と大人だ。
顔は耳の近くまで裂けており、見た目結構怖い。
浅黒の肌に三白眼。眉毛ないし。見た目で威嚇するタイプか。
事故やケンカで怪我した感じではなく、生まれつきっぽい。突然変異だろう。
体の一部が大きかったり見た目がいかつかったりするのはディストピア系の未来ストーリーじゃありがちだな。
前世の映画の経験が生きたのか俺は驚かなかったが、タチアナは完全に固まっている。
大男は、ほんの数秒で200gもあった肉をぺろりと食べきってしまった。
両腕に表面実装型の魔道具をいくつも装備しているのが見える。
杖も持っているし、魔法使いなのかもしれない。
見た目でも威嚇しているのか、とても強そうだ。
相手は俺がビビってると思っているかもしれないが、俺の頭は今までに無いくらい冷め切っていた。
長年生きた大人の余裕というより、俺の豚生姜焼きが無くなった事で、怒りがぶっ飛びすぎて逆に冷静になってしまったのだ。
そもそも、前世で俺に絡んで来た不良は、金を出せと言う前にボッコボコに殴ってきて、それから金を出せと言ってきていた。
それと比べると、わざわざ殴る前に声を掛けてくれるこいつらは割と紳士なのかもしれないな。
相手を全体的に見て観察すると、仲間意識が強そうだ。こんな見た目のボスなのにな。
なら狙いは簡単だ。
ポイントは、相手に対して容赦しない事と……最も強い一人を徹底的に狙う事。
大男が右腕で殴ってきた。左腕でガードするふりをして手首をつかむ。
更にその手首を引っ張ると大男が体勢を崩し、たたらを踏む。
このまま投げても良いんだが、食べ物の恨みだ。
良い子も悪い子も真似しちゃいけないシリーズのスタートだ。
コイツも俺やタチアナと同じく、表面実装のチップはすべてソケット付きだ。
見せ付ける事を意識したのか、テープで保護もしていないとは愚か者め。
簡単に外せる事が仇となったな。
体勢を崩している間に、大男の右腕に実装されているパーツを2,3個さっと組み替える。
組みかえるって程たいした事はしていない。逆向きに刺すだけだ
コツは極性があるパーツを狙って逆にすることだ。
別のパーツと入れ替えるなんて面倒なことはしない。
乾電池のプラスとマイナスを入れ替えると回路が壊れるだろう?
電池じゃなくて回路の中身でも同じだ。
そのまま俺のほうから魔力を流し込むと、流れてはいけない方向に魔力が流れたのか、男の腕がパン!と音を立てて、幾つかの表面実装のチップが割れて血が噴出した。
「があっ!」
大男は叫びつつ、痛みで力が抜けたのか、ひざを落とした。
引っ張っていた手を緩めると、そのまま倒れてくる。
良い高さだ。
まだ左手で大男の右手首を掴んでいたので、くるりと左手を返し、軽く手前下に引っ張る。
大男の掌が上を向いて腕がピンと伸びたので、そのまま地面に向けて勢いをつけながら、大男の肘へ左膝蹴りをシュウーッ!
ぺきん、と音を立てて肘が逆を向いた。おお、痛そうだ。
「~~~~~~~~~~ッ!」
大男が声にならない叫びをあげ、地面に倒れた。
タチアナが倒れた時の姿を一瞬思い浮かべたが、大男に対しては憎しみしか出てこない。
タチアナがまだ、ぽかんと口を開けてこっちを見ている。
「タチアナ、12000円食われたぞ」
そう言うとハッと我に返ったのか、視線を落として大男の姿を確認すると、容赦なく耳をげしげしと踏みつぶした。
大男が呻き声をあげる。
いいぞ、もっとやれ。おれもやる。
さて、ここが一番大事な所だが、一人倒した時点で勝負が決まるわけではない。
そう、まだ相手の方が多い。相手が全員でこっちに殴り掛かってきたら勝てる気はしない。
だから一番強い奴を先に叩きのめし、そのあとはそいつを徹底的にボコボコにする。
視界の端で仲間が動いた瞬間に顔面を蹴り、動かなかったら蹴らない。
誰も動かなくなったので、仲間たちに顔を向ける。
仲間の一人が腰を下げて両手をこっちに伸ばす。待てのポーズだろうか。
倒れている大男を蹴る。
男は口の中が切れたのか、血の泡を吹いている。時折うめき声をあげるが、俺もタチアナも怒り心頭だ。
無感動に男の顔と腹を蹴る。
げぼっと言う声とともに、口から吐瀉物が出て来た。
それを見てさらに怒りが湧いた。
せっかく高い豚肉食べたんだろう?戻してんじゃないよ。
青ざめた声で仲間が言う。
「まっまて、やめてくれ、やめてください。そいつを離せ……離して……ください」
「そうしたら襲ってくるだろう?」
蹴る。
「絶対襲わない、あんたたちに二度と関わらない。約束する。だからお願いだ」
「おねがいします、だろ」
一言だけ言って、蹴る。
「お願いします!」
仲間たちは全員でのろのろと土下座をした。
さて、どうしよう。
関わってくれなきゃそれでいいんだけど、怒りはまだ収まってない。
こいつら金持ってなさそうだし。
金以外が良いなあ。
「持ってるデバイス全部出せ」
「はっはい!」
ある意味身ぐるみ全部剥いだ。
表面実装型の魔道具のパーツを3つ分ゲット。洗浄してから検分しよう。
絡んできた大男の表面実装魔道具は壊れていたが、持っていた杖は無事だった。
拾って調べてみると、ワイヤーシューターだと言う事が分かった。
宇宙海賊の手首から射出するあれだ。
フック付きのワイヤーを射出し、どこかに引っ掛けて、巻き上げる事で自分の体を持ち上げたり出来る。
見た目は爺ちゃんが持っているような杖だが、石突の部分が射出して、爪が飛び出るようになっている。
探索には便利だな。特に崩落する遺跡とか。
貰っていいのかな。タチアナを見る。
肩をすくめたので貰っておこう。
宿への帰り道、タチアナがぽつぽつと話してくれた。
「あんた、強かったのね」
「たまたまだよ。肉を食われる前に何とかしたかったけど」
「あぁーもぉー、もっと蹴っておけば良かった」
「ホントだよな。……怖くはなかったのか?」
心なしかピキッて音が聞こえた気がした。
「あのねヒデキ」
「はい」
「あんたが遺跡に行って崩落の警報を聞いた時と」
冷や汗が出てきた。コレまずいパターンだ。
「はい」
「その遺跡から何とか助け出されたけど何日も目を覚まさない時」
「……はい」
「それと比べて今回の奴がどれだけ怖いと言うのかしら?」
「すいませんでした。その節はご心配をおかけしました」
ひたすら謝る。
機嫌が直ってくれたので、新宿ダンジョンに行く準備をする。
食料がどうしても足りないので、ざざ虫を食べる事にする。
ざざ虫の見た目だが、まぁ、うん。
足が沢山生えた芋虫で見た目から正気値を削ってくる。
それが瓶の中に沢山串刺しにして入ってるんだ。
駄菓子屋でのしイカとかゲソの串刺し見たことあるか?アレの虫版だ。
佃煮にしてあるから、目をつぶって食べれば焦がし醤油の甘辛さと虫が持つ苦味がマッチして、酒が飲みたくなる。
しかし、目を開けるとざざ虫ヘッドとコンニチワ。
夢に出るわ。
あぁ、俺の豚肉……生姜焼き……。
明日は新宿ダンジョンだ。
そこで何か金目のものを見つけて豚肉リベンジしよう……。
豚肉は絶対に、絶対に熱を通して食べてください。ほぼ寄生虫が居ます。




