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■1:役所のお仕事

 鬼に連れられて1時間ほど走っただろうか。

 住んでる地域の市役所のような建物の前で、ようやく鬼は手を離してくれた。


 肉体的な疲れはないが、精神的な疲れが半端ない。

 地面に片手をついて息を整える。息なんてしていないのに。


 落ち着いたところで目の前の真っ白な建物に目を向ける。


 なんというか、完全に市役所というか村役場?豆腐ハウスとか豪華なプレハブと言っても過言ではない。

 鬼は無言で建物の入り口らしいドアを指差した。

 そこに行けという事か。


 この建物の敷地だけ、地面が白いコンクリートのようになっており、その外は赤茶けた大地が広がっている。

 違和感しかない。


 もう坂じゃないので、恐らく山頂なのだろう。


 他にいく当ても無いので、おとなしく中に入る。

 こういう選択肢が限られているRPG的なのはちょっとどうかと思うんだ。


 ……外だけではなく、中も市役所のようだ。

 入り口の脇に居た年配の女性が声をかけてくる。


「死者の方ですね?受付はまず3番に行き、その後5番にお願いします」


 こんなところまで市役所かよ。

 日本語じゃイタリア人には分からんよね。

 とりあえず一緒に連れて行こう。


「This Way...」 

「はい」 

「First No.3, Next No.5 OK?」 

「大丈夫、さっきの女性の言葉を聞いてたよ」 


 んん?!言葉通じた?


「もしかして私の言ってる言葉分かります?」 

「うん。イタリア語喋れたんならもっと早くイタリア語で喋ってよ」 

「いや、こっちは日本語で喋ってるんだけど……」 

「え?イタリア語だよね?」 


 ……あー、これ翻訳されるヤツか。

 場所柄かな。なんたって死後の世界だ。

 意思疎通が簡単に出来るようになったのは良かった。

 3番に行こう。若い女性鬼が受付している。


「コんにちは、本日はドのようなご用件でしょうカ?」 


 イントネーション変だな。


「坂を登ってたら鬼に連れてこられたので、こちらも何がなんだか分からないんですが・・」 

「転生の方ですね。死後も意識を保ってる方は知的生命体への転生が出来ますので、コちらにお呼びしているんです。」 


「はあ、ちなみに意識を保ってない人たちはどうなるんですかね。結構な数いましたけど」 

「ソの方達は残念ですガ自我のある知的生命体ではなイ、植物や昆虫などにナりますね。」 


 え、無言で歩いてた人たちは虫草ルートだったの?!

 そのまま歩いてたら私も虫草ルート?こわっ!


「知的生命体ではナい転生をご希望であれば承れますが?」 

「いえ、知的生命体への転生をお願いします」 

「カしこまりました。ソれではこの書類に必要事項を記入のうえ、5番窓口に提出をオ願いシます。その後お呼びするまでオ待ちください。」 

「ありがとうございます。ほらイタリア人、書類だってよ」 


 書類を渡そうとすると、眉をひそめてイタリア人が答える。


「私はイタリア人って名前じゃない、タチアナって呼んでよ」 


 え?日本人?


「オーケータチアナ、タチアナは日本人だったのか?」 

「違うわよ、タチアナは立派なイタリアの名前よ?あなたの名前も聞いてないわね」 


 マジかよ、すごく日本語ライクな名前だな。


「そうなのか。私はヒデキだ。ハイ書類。……すいません、私の分の書類もお願いします」 

「イえ、今回二人でイらっしゃったので、書類は1枚で書いてくださイ」 


 そういうものか。なら仕方ない。二人で書こう。

 ちょうど待合室にテーブルがあるので、そこで書類を見る。

 書面を見ると、転生する年と場所、種族の記入欄がある。

 未記入だとランダムになるそうだ。


 おお……未来に行けるのか。

 と言うか未来にしかいけない。


 つまり、夢にまで見た空を飛ぶ車や体にぴったり張り付くスーツが見られるわけだな!

 いやしかし、あまり未来に行っても今の常識が邪魔してなじめるとはとても思えない。

 未来に行くのも悪くないが、あまり流行が違いすぎるのもな。


 何より何十年何百年未来に行ったとして、今まさに連載中の漫画や好きな同人作家の作品が残っているとは限らない。

 ここは堅実に死んだ年にしよう。何、死んでしまったらもう一度転生したらいいんだ。

 と言うわけで早速記入する。

 2017年と。


 場所は日本で、当然種族は人間だ。

 さっきの話だと家畜も知的生命にカウントされてる可能性があるので、牛や豚に転生しても困る。


「なあ、タチアナの転生場所を書く欄がないんだが」 

「そうね、出すついでに聞いてみましょ」 


 書類をさらに見ていくと、技能記入欄がある。

 おっ、コレはチート授与かな?

 しっかり読もう。


 健康、長寿、豪運、奇運、ハゲない


 えー、魔法とか無いのかよ!現代日本で健康長寿とか当たり前すぎるぞ?

 最後のとか切実なお客様からの声があって追加されたに違いない。

 二つまで丸をつけられるのか。

 まぁ癌とか怖いし、健康と豪運かな。


 書類が出来たので、次の窓口だ。

 5番に書類を提出する。


「スいません、転生年に不備があルため受付出来マせん」 

「え、全部埋めたはずですが、まずかったですか」 


 鬼は書類の1カ所を指でトントンと叩いて間違いを示す。

 良く見ると転生年は死んだ年と同じ年は不可と書いてある。


 7に横線を入れて、8と書く。


「あの、タチアナの住所欄が無いのですが」 

「拝見イタします。コレで不備は無いですネ、受理しまシた」 

「いやあの住所欄が」 

「アあ、転生後も夫婦を選ばれマすか?」 


 おい。

 年の差考えろ。

 微妙な顔で若い男性鬼を見る。


 怪訝な顔で男性鬼は言う。


「二人で心中なされタのでは?」 

「いえ、死んだ後、坂を登ってくる途中で知り合ったので」 

「サようでございますか。失礼しましタ」 

「あの、書類の書き直しは・・」 

「出来まセン、受理シましたので、6番窓口へどうゾ」 


 マジかよ。

 しかしタチアナはまんざらでもない顔になっている。

 何だ、俺に惚れたのか?

 俺はコンビニのおつりを意識しちゃうような男だぞ。

 そんな思わせぶりな態度を取らないでくれ。


 6番窓口に行く。ここで最後だ

 おお……天井まで届きそうな巨大でムキムキな男性鬼がいた。

 Yシャツもパッツンパッツンだ。


「ヒデキ様、エー受付が完了しまシたので転生させてイただきます。西暦20178年、場所は日本、種族は人間で受け付けてオります」 

「はぁ!?」 


 喋った?!の驚きよりも、コイツの発言の内容に思わず声をあげてしまった。


「ナにか?」 

「いや2017年じゃ駄目と言うから横線引いて2018年にしたでしょう!」 

「そうオっしゃられマしても、横線を入れタこの数字は7でショう」 

「えぇ!違いますよ!20178年っておかしいでしょう!」 

「書類上は成立してオります」 


 有無を言わさない態度だ。


「そんな……」 


 文句を言いたいが滅茶苦茶怖い見た目なので強気に出られない私は小市民。

 これ以上の交渉は難しいか。

 転生ならラノベルートを祈って質問しよう。


「……記憶は受け継ぐんですよね?」 

「受け継ぎマせん」 


 マジかよ・・・記憶引継ぎなしで異世界も同様の超未来に転生……チートの話も無いとなると結構絶望的か?人類がどれ位居るかも分からん。

 選択できたからには人類はいると思うが、生存確率低すぎないかコレ。

 せっかく転生できるのに生まれてすぐ死ぬとかもったいなさすぎる。

 生まれるよりも前の年に転生する事が出来ないんだぞ。

 何より遠征した後は赤ちゃんだろう。

 次にここに来たときに自我があるとはとても思えん。失敗したら草虫ルートだ。


「なぁ、さっきの夫婦って言うのは」 

「場所の日本の中でランダムに転生サれますが、夫婦オプションを選択さレればごく近い範囲に転生し、再び出会う運命を結びつけルことが出来マす」 

「じゃあそれを頼む」 

「ヒデキ!?」 

「タチアナ、記憶を受け継がない状態でこんな未来で一人で生きる事が出来るかは俺にはさっぱり分からん!離れるのは得策じゃない!それに私はせっかく出会えたタチアナに死んで欲しくないと思ってる。一人より二人のほうが都合が良いだろう!」 


 タチアナがハッとした顔をし、頷いてくれた。


「ところで夫婦になるって言わなかったけど、再び出会う運命があっても夫婦になるとは限らないの?」 

「ソうです。あくまで出会うダけです。」 


 話はついた。


「時間デす。転生シます。」

「じゃあな、タチアナ。短い間だったが楽しかった」

「ヒデキ、私こそありがとう。まさかリンネテンセイが本当にあるとは思わなかったけど、またあのアニメの続きを見られる機会をくれて感謝しているわ」

「……20178年にあると良いな」

「あっ」

「転生シます。」


 こうして、安田秀樹の意識は消失した。


「次ノ方ー」 

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