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中間管理職のおっさん、一万八千年後の未来へ。  作者: youli
第二章:転生から沖縄まで
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■8-2:カミングアウト

 思ったんだが、タチアナはマイペース過ぎないかな。

 それとも俺の説明が不味かったのか?


「だって前世って突飛過ぎるよ?そのうち包帯や眼帯をして黒づくめの格好をするようになるヒデキは見たくないよ」

「あぁもう、そんなつもりはないから安心してくれ。例えばだ。この柱に書かれた古代文字、読めるか?」

「読めるわけないじゃない。記号文字ってことくらいしかわからないわよ」

「これな、消火栓って書いてあるんだ。火事になった時にこれを使うと水を出す事が出来るんだ」

「ショーカセンね。それが分かったから何なの?」


 コイツ本当はアホなんじゃないだろうか。


「いや普通は読めないでしょ?前世の記憶があるから読めるようになったの!」

「それとヒデキの中二病が何の関係があるのよ」

「話聞いてた?!しかも中二病じゃないよ?!タチアナの知らない知識があっても不思議じゃないだろ?」

「……言いたいことはわかったけど、私より知識のあるヒデキはヒデキじゃない。偽物め!」


 ええぇ?!


「俺を中二病と言うタチアナも大概偽物だと思うぞ」

「だって私の優位性が、アイデンティティが……私より知識のあるヒデキっておかしいもの」

「どこからそんな言葉を覚えて来たのか知らないが、タチアナにはタチアナにしか出来ないことがあるだろ。俺には前世の記憶はあっても、今のこの世界の知識はタチアナの方が断然上だぞ」

「そう、ね。ならいいわ」


 一瞬「何言ってんだコイツ」みたいな顔をしたので信じてはくれていないだろう。

 しかし機嫌を直してくれて何よりだ。

 安心して永田町に行ける。

 帝都トーキョーを出発だ。


 しかし帝都といえども売っている物はアサクシティとなんら変わりない。

 もっと贅を尽くした食事が出て来るもんだと思っていたんだが。

 豚牛どころか哺乳類の肉すら見ていないんだけど、マジで。

 野生動物でもいいからさ。どこいったのよ。

 出ておいでよ。生姜焼きにして食べちゃうからさ。


 そう生姜見つけたんだよ。肉が無いと美味しくないんだよ。多脚虫は全体的にエビっぽいし、芋虫は風味豊かな固めの豆腐ハンバーグみたいだし、そんなのに生姜使ってもおいしくならないの。

 筋肉だよ筋肉。

 赤身を食べたいの!

 もうジンジャーエールでも作ってやろうか。砂糖が無い。ぬおお!


 地下鉄に期待してユーラクシティに向かって早3時間。

 シティと言うか廃墟と言うか、ほとんど砂に埋まっている。

 砂から斜めになったビルが、かわいらしく僕ここにいるよと自己主張している。

 ここに自由の女神の上半身があっても何ら不思議ではない世紀末感。

 世紀末と言ってもバイクを乗り回すヒャッハーな連中は居ない。一子相伝の拳法もない。

 バイクに乗りたくなった。俺は風になりたい。

 遺跡発掘するなら移動手段としての乗り物開発しろよ!こっちは歩きなんだぞ!


 逆切れしても話は進まない。

 考えが顔に出るので、百面相している俺の顔をタチアナは心配そうに見ている。

 いかん、このままだと強制入院の措置が取られてしまう。


 改めてユーラクシティを見てみよう。

 建物は跡形もなく瓦礫になっており、おおよそ人の住める環境ではない。

 地下鉄も砂で埋まっているはずだ。

 こりゃあ、無理だな。

 仕方ない、砂漠をこのまま歩いて永田町に行こう。



 砂漠を歩く。

 無言で。

 二人で。


 この辺に居る生き物は俺たち二人だけだろう。周りを見渡す限り一面の砂漠だ。

 ビルの廃墟もなく、ただ荒涼とした砂漠が広がっている。

 いや、しかし暑いな。

 俺たちの格好が水分の蒸発を防ぐために、ぴっちりとしたスーツとぼろ布を頭から覆った格好も暑さの原因となっている。

 まぁ、これだけ体が小さいなら、温度調整は楽だろう。

 身体が小さいと言うことは、体の体積に対して表面積が大きいと言うことだ。

 つまり周りの気温によって体温はとても変化しやすい。

 小さな生き物ほど本来体温調節が難しいのだ。

 また、小さな生き物ほど寿命が短い。代謝が関係している。確か体重16倍で寿命が2倍、亀と人間は例外だったはず。


 しかし、砂漠を歩く俺たちは、体感的に前世と同じように体調管理できていて、1日も24時間に感じている。本来ならあり得ないことだ。

 いや前世で砂漠を歩いたことはないけどさ。すぐコテッて倒れるような心配が全然感じられない。このサイズならすぐ熱でやられてしまいそうだが……

 一体人類はどうなってしまったのだろうか。

 

 あぁ、BGMも無く景色の変化もない状態で歩くと、変な事考え始めるな。まるで禅だ。

 禅ってさ、肩叩かれてるうちに、最初は姿勢が悪かったのかな?とかちょっと動いたからかな?と自分の中で叩かれる理由を探すんだけど、そのうち自分でもカンペキだろ!って思って居ても叩かれて、なんで自分は叩かれたんだろう、と考えだす。

 それでもまだ叩かれるから、人間の脳みそって不思議で、何とか理由をつけようとするんだよ。ちゃんと精神が統一されてないとか、昔捨て猫を家に持ち帰った時に親を説得しきれなかったからだとか、受験料をゲームセンターにつぎ込んだからだとか。自分の中で叩かれて然るべき、罰を与えられて当然の罪を探し始める。

 そして、叩かれたのだから許された、と考える。そうして頭の中が晴れ上がっていき、精神統一を身に付けるのだ。


 俺も会社の旅行の中で禅の修行を前世で受けた事あるからね、余計なことあれこれ考えたりしない、明鏡止水の精神を身に付けたのさ!


 得意げな顔をしている俺をタチアナがげんなりした顔で見てくるが、全然気にならない。

 禅の効果だ。


 せめてモンスターとか出て来たらメリハリつくんだけど、もともと砂漠は生き物少ないしね。

 前世でも山を歩いても野生生物に出会う事はまれだ。

 よく見ると言ってもせいぜい野鳥位か。


 生き物だからお互い怖いんだよ。だから隠れる。だから見つからない。

 砂漠は隠れるところはないし生きるには過酷だし、エンカウント率が低いのかもしれないな。

 そう思っていたところでタチアナが声をかける。


「ところでヒデキ、結構歩いたけど、ナガタチョーには何があるの?本があるってのは話の流れでわかるけど」

「そう言えば言ってなかったな。それはな……」


 なぜそんなに永田町に行きたがるのか。

 永田町に何があるかって。

 有名どころなら国会議事堂があるね。

 でもそれだけじゃない。


 今回俺たちが目指すのは……







「国会図書館だ」

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