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中間管理職のおっさん、一万八千年後の未来へ。  作者: youli
第二章:転生から沖縄まで
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■6-2:旅立つ前の準備

 旅立ちの準備をしつつ、1日4時間ずつ3か所の工房に勉強しに行った。


 溶接・回路の組み立ては前世の記憶とそんなに変わらない。

 この世界ではキャタピラ付きの荷車やクレーン車と言うものはあるが、人が移動するための手段の乗り物と言う概念があまりなく遺跡からも発掘されないため、太陽の魔石を利用した荷車を作成した。

 学生時代にバイクのエンジンを搭載した猫車を組み立てた経験を活かす事が出来た。

 面積が足りず荷車程度しかできなかったが、いずれは車を作ってみたい。


 車が無い原因も考えてみたが、恐らく砂漠化と、適度に進化した文明からの文明崩壊が原因だろう。

 2017年時点でも自動車の自動運転化が進んでいた。

 将来的には個人が所有する乗り物は無くなるだろう、と言う予測もあった。

 そして東京近辺と言う事もあり公共交通機関の発達は他の追随を許さない事だったろう。

 乗り物もさらに進化し、空を飛ぶようになったのかもしれない。

 タイヤは無くなったはずだ。

 そしてワープで移動するようになった事で、公共交通機関もなくなった。


 砂漠化への対策が殆ど出来ていない事から、砂漠化は文明崩壊の後に起きたのだろう。

 キャタピラが現存すると言う事は、人類は衰退した文明の中で何とか砂漠化に対応しようとしたはず。

 しかし交通網までは発達することが出来なかった、あるいは発達途中なのかもしれない。



 気になる点も解決できた。

 子供が生きていく上では全然知ろうとも思わなかったことだが、前世の記憶が蘇ったため気になってしょうがなかったのだ。

 川がそばにあるとはいえ、砂漠の中にこれだけの町があるにもかかわらず、食料が維持できている事の理由だ。

 合成肉や人工肉にも限界があるだろう。


 理由はすぐに分かった。

 地下プラントで大量の虫を育てていることが分かったからだ。


 見学させてもらったが、もう二度と行きたくない。

 大量のザザムシがウゾウゾ徘徊している部屋を見たときは気絶しそうになった。

 確かに一部地域では食用だけどさああああ!

 気絶耐性が欲しいが、この世界にそんな仕組みは無い。

 そっと手を股間に添えて、漏らしていない事を確認し、安堵した。


 偶蹄目は居なくなったのか?出てきておいで。食べてあげる。



 町長宅にある故障したパラボラアンテナのモーターを修理し、衛星を探してもらう事にした。

 町長は手足のように動かせる機械は沢山あるが、故障原因を調査するような機械は持っていなかったようだ。

 テスターを当てて電流が通っていない回路を一つずつ確認していくと、モーターの一つが焼き切れている事が分かった。

 無事修理は出来たが、衛星が今もあるかは分からないし、ダメかもしれない。

 なお、壊れたパラボラを修理しても武器にはならなかった。



 毎日の体へのイメージトレーニングも続けているが、魔法も勉強した。

 勉強と言っても殆ど実技だが、装備によって使う魔力の調節や、他の魔力を上げるための修行もした。

 ポイントは呼吸法だが、まだ意識しないとその呼吸法は出来ない。

 前世での漫画で呼吸法でアレを練って殴りながら放出するものもあったが、殴りながら魔力を放出しても特に意味はなかった。

 痛みは消えないしゾンビもいない。

 水面を走ってみると言ったときは本当にかわいそうな目で見られた。

 当然水没した。



 魔力ってそもそも電気じゃないのかコレ。

 疑問に思ったら止まらないので、幾つか検証はしてみた。

 バチッと火花は飛ぶが、空中放電している割にスタンガン的な使い方は出来ない。

 恐らく相手が魔力を吸収していると思われる。

 火花が飛ぶ現象が空中放電じゃないのかもしれない。

 レーザーのように、放電が主現象ではなく魔力を込めた事で副次的に発生した現象かもしれない。

 レーザーの原理は、炭酸ガスやルビーを励起して光を生み出していると言うが、その励起が「エネルギーを溜める」しか分からない。

 しかしエネルギーがそのまま放出されるのではなく、光と言う別の現象に変わって出力されているのがポイントだ。

 この「バチッ」が魔力ではなく、魔力が空中に放出された結果、空中に何かしらの変化が起きて「バチッ」になったと言う仮説を立ててみる。

 町長が魔力が溜まって結晶化すると言っていたので、魔力は純粋なエネルギーではなく、粒子のような物質なのだと仮定。

 この粒子自体がエネルギーをもっていて、さまざまな現象を起こすのだろう。魔粒子と呼ぶ。

 この時、魔粒子の振る舞いは思いつく限りで4つ考えられる。


1:熱湯が熱を出して水になるように、高エネルギーの魔粒子が魔力を放出して安定した低エネルギー魔粒子になる?

2:それとも炭酸水から炭酸ガスが抜けてただの水になるように、魔粒子なる物質に魔力が溶けているだけ?

3:それともろうそくが燃えてススになるように、魔力を放出して全く別の物質になる?

4:魔粒子そのものが魔力であり、電子のように直接現象を起こしている。


 4以外だと、魔力と魔粒子は別の存在になるな。

 1と2の複合がレーザーに一番近い考えだ。体細胞の本来の反応に最も近い。

 2だと溶けられる量に限界がありそうだし、1だと無理に魔力を蓄積すると爆発するイメージがある。

 3はむしろ魔石の考え方だな。使い切ったら灰になってボロボロ崩れるし。

 4は電子に最も近い振る舞いをする。空中に電子を放出してもバチッになりそうだな。


 うーん、魔力はワイヤーに通すと熱を出したりするため電気だと言う考えが頭から抜けないな。

 どう考えても魔力って電気じゃないの?って言う結果を考えてしまう。


 太陽の魔石も無理やり通常の魔石と同じように使うとボロボロの灰になるので、今の所、2の溶媒説が一番高いかな。

 今後魔力を使って何かするときに意識してみよう。


 体のイメージトレーニングも、この魔粒子を増やすことでこめられる魔力も増えるという意味だろう。

 溜めすぎるとホクロになるらしいが、取れるなら問題ない。


 タチアナは料理の腕を伸ばしつつ勉強に励んでいるようだが、虫料理はレパートリー増やさなくても良いぞ。








 こうしてあっという間に1か月が経過した。

 翌日。出発の日だ。


「町長、世話になった」

「ヒデキよ、お前の家はそのまま残してあるから、いつでも帰ってこい。死ぬまではココに登録が残るからの。誰も入れないから安心せい」

「町長……・ありがとう」

「ヒデキよ、餞別をやろう。白紙を3枚用意するのだ」

「手元にあるが、コレでいいか?」


 町長が紙に手をかざすと、焦げ臭い匂いと共に、紙に自動的に文字が浮かび上がってくる。

 俺は心の中で「なるほど、これは確かに魔法だな」と呟き、口をほころばせる。

 印刷されて出来たのは住民票謄本と書かれた紙が2枚と、紹介状1枚。

 住民票って……町長はちゃんと町長だったんだなぁ、としみじみ。


「この書面があれば、他の町のワシのような特別な存在や町長に、アサクシティのヒデキだと言う事が証明できるのじゃ。なくしたらいかんぞ。住民カードがあっても、それが読める環境とは限らんのじゃからな。そのための紙じゃ。紹介状のほうは、お前さんが知識豊富な人間であると言うことを私の名前で紹介している。何か仕事をするときに役に立つじゃろう」

「そうだな。他の町がどれだけ発展しているかは分からないが、カードが無いところもあるかもしれないしな」

「え、ヒデキ、他の町に行ったことがあるの?アタシ聞いてないよ」

「いや、俺は行った事ないぞ。でもなんとなく想像はつくんだ」

「そう、……ならいいわ。ねぇ、最初はどこに行くの?」

「あー、ナカノシティかアキバシティって検討は付けてたが、まだ決めてなかった、町長、お勧めはあるか?」

「あるぞ、まずは北西にある帝都トーキョーへ行くといい。ここも住所上はトーキョーだが、帝都に行けばアサクシティの住民カードを、他の町でも使える住民カードに換えてくれるはずじゃ。後、今の住民カードの中の金は、インゴットに換えておくといい。他の町で使えるかも分からないからの」

「北西?……わかった。タチアナ、俺のカードも頼む。……しかし町長、トーキョーに着く前にアキバシティに寄れるんじゃないか?」

「ヒデキよ、お前さん、地理に詳しかったかの……?先にトーキョーに行くことを進めるわい。今もってるカードがアキバで使える保障はあるのか?ん?」

「そうだな……わかった。アキバシティは迂回して、先にトーキョーに行こう。タチアナ、インゴットへの換金は済んだか?」

「大丈夫よ」

「では、出発だ」


 こうしてアサクシティを出発した俺達だが、3時間で早くもへばっていた。


「っかしーな、浅草から東京駅だとしても、たかだか5km程度だろ、もうとっくに着いててもおかしくないはずなんだが……昔の東京駅と帝都トーキョーは別の所なのかもしれないな……」

「ヒデキィ、やっぱり旅人とか商隊のキャラバンに同行したほうが良かったんじゃない?暑いよ……」

「そうだな、キャラバンを見つけたら合流してみよう。まさか東京が……本当に砂漠になってるとは思わなかったからな」


 目の前には見渡す限りの大平原……では無く砂漠が広がっていた。

 所々牙のように切り立っている岩は、恐らくビルの成れの果てだろう。

 出来るだけ岩の陰を歩くようにして、ひたすら進む。

 ゲームと違って、砂漠のフィールドを歩いても、全くモンスターは出てこない。


 何故だろうかと考えたが、常識に照らし合わせると納得がいった。

 そもそも砂漠は生き物が少ない。餌となる食べ物が居ないからだ。

 観光旅行でも出張でも、砂漠の旅でも旅の前の下準備は大事である。

 事前に調べたところだと、大きい順にサンドワーム、デザートイーグル(銃じゃないぞ)、砂蛇、蠍、フンコロガシが居る。

 カマドウマは出てこない。

 一番小さなフンコロガシでも俺の膝に近い大きさで、蠍の種類によっては俺よりも大きい。

 油断は禁物である。


 ここからは予測だが、出会う事が出来る順番は、大きさと逆だ。

 自然界では大きい生き物ほど数が少ないからである。

 砂漠と言う環境では殆どの生き物が少ないが、大物は更に少ない。

 モンスターは出なくても、現状は厳しい。環境こそが敵だ。


 ただひたすら歩き、大気水分凝集装置を見ては中々溜まらない水にやきもきしながら、大岩の陰で休み、遠くを歩いているフンコロガシをみて溜息をつく。

 日が暮れる頃になってきた頃に、ようやく町が見えてきた。

 遠くに町の姿を見つけた時に浮かんできた感情は歓喜か、それとも空腹か。


「あ、あれがトーキョーか?」

「どこでもいいよ、もう入ろうよ。もう休みたいよ。水飲みたいよ」

「そうだな、とりあえずあの町に入ろう。」


 町の入り口までたどり着いた所で、門番に止められる。


「ちょっと待てお前ら、どこから来た」

「あぁ、俺たちはアサクシティから来た。ココは何という町だ?とにかく休みたいんだ」

「ココはアキバシティだ。住民カードは持っているか?持っているなら出してくれ」

「え、1日歩いてまだアキバシティなのか?マジかよ……予定変更、アキバに寄ろう。カードだったな、コレでいいか?」

「ああ、確認した。ようこそアキバシティへ。歓迎する」


 両手を広げて歓迎の意を示してくれるのは嬉しいが、こっちはもう倒れそうだ。

 もう夕食とかいらない、とにかく寝たい。


「疲れてるんだ。宿はあるのか?」

「門のすぐ裏は宿の通りになってる。治安は悪くないから、どこでもいいさ」

「助かる……。もうちょっとだ、タチアナ、頑張れ」


 こうして苦労の末、アキバシティへ到着した。

 名前も見ずに宿に入り、風呂にも入らずベッドに二人して倒れこんだ。どんな町かは、次の日じっくり見せてもらおう。おやすみ……

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