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■0:プロローグ

初めての投稿。

 ふと気がつくと、私は列に並んで歩いていた。


 見渡す限りは赤茶けた丘、草木も水もない。

 まるでテレビで見た火星の大地のような坂に大勢の人が並んで登っている。

 空は大地と同じように赤茶けており、不自然なほど白い雲があちらこちらに浮かんでいた。

 周りの人は一言もしゃべらず、列が進むたびに少しずつ足を進めている。

 皆一様に、頭からぼろきれをかぶり、裸足で歩いている。ふと目を落とすと、私も同じく裸足であった。




 最後に覚えているのは激しい頭痛と、真っ暗な視界。



 今日、会社では委託業務の管理者として数十人の部下と共に仕事をしていた。

 業務時間が終わり、今日もありがとうと部下を労い、家の近くのゲームセンターでダイエット。

 金曜日だったので、どうせ洗濯するからとスーツのままゲームセンターへ入り、廃人御用達の音ゲーをプレーしていたはず。数クレジット遊んだ所で突然、強烈な頭痛に襲われ、倒れてしまった、のだと思う。


 倒れたと言うことは病院に運ばれるはずだが、今は裸足で歩いている。

 着た事もないぼろを纏って。頭は全然痛くない。

 夢なのだろうか。それとも死後の世界か。

 死後の世界だとして、どこまで覚えているのか思い出してみよう。





 私の名前は安田秀樹(ヤスダヒデキ)。35歳。

 安田家の次男。子供の頃は神童と呼ばれ、高校になる頃には成績が埋没する類の、よくある「機転はあるが記憶力が弱いタイプ」だ。

 大抵はコミュ障になる。


 どちらかと言うと消費する側ではなく、モノを作る側のオタクであった。

 学生時代はコスプレもしていたし、大学時代からは文系ながらも情報系に進んだと言うこともあり、電子工作や車いじりに明け暮れた立派な理系男子であった。


 地方の大学を出てそのまま就職して、結婚もしないままだらっと生きてきたが……まさか死ぬとは。


 死ぬのは初めてだが、コレ転生とかあるのかな。

 仏教系の虫や草花に転生するタイプなのか、ラノベ系の人間として生を受けて記憶保持ーのチートしぃの内政チートをするタイプなのか気になる所ではある。

 魂だけになったからなのか、生への執着があまり感じられない。


 もう3,4時間は歩いているが一向に終わりは見えない。

 周りの人も一言も喋らないので妙な緊張感がある。

 喋ったら駄目なルール無いよね。

 もう死んでるから日本神話的にも後ろを振り返っても問題はないと思うので、振り返ってみて、息を呑んだ。


 ふもとが見えない。いや見えているのかもしれないが、とんでもなく遠くて分からん。

 何千、何万と言う人がずらっと並んで、うつむきながら坂を登って来る。


 レミングス的な恐怖を感じながら、勇気を出して前の人に話しかけてみよう。


「あの、すいません、ここがどこだか分かりますか?」 

「……Che cosa stai dicendo?」 


 まさかの外国語。

 英語しか分からんぞ。

 フランスでもドイツでもない、多分スペインとかイタリアとかポルトガルとかかもしれん。


「スパニッシュ?ポートゥガール?イタリー?」 

「Italia」 


 イタリアっぽい。頑張れ私。

 新潟出張に行ってなぜかタイ人と友達になったコミュ力を生かすんだ。

 しかしイタリア語なんぞ分からん。

 パスタとピザとローマの休日くらいだ。後フェラーリとかマリオとか。


「キャニュースピークイングリッシュ?」 

「little」 


 ちょっとだけね。

 大丈夫、私もです。

 たどたどしい英語で、何故皆黙っているのか、ここはどこか、何が起きたのか聞いてみるが、良く分からない様子。

 ただ共通しているのは、どうやら自分達は死んだ後ここに来ていること。

 話しかけられるまで頭がぼんやりしていたのか、何も考えていなかったこと。

 そして、家のPCのハードディスクが心配なことであった。


 大丈夫、遺言はPCのデスクトップにテキストファイルとして残してある。

 友人が適切に処分してくれるであろう。

 遺書のことをダイイングメッセージと言うと笑われた。何て言えばいいんだよ……。


 ふと地揺れを感じた。

 あたりを見渡すと、遠くから誰かが走ってくるようだ。


「Spaventoso, aiuto!」


 何言ってるのか分からんが、怖がっているようなので肩に手を置いて安心させる。

 大きく砂埃を上げながら目の前でとまる。


 身長3メートルほどありそうな……鬼だ。

 滅茶苦茶怖いが、この手のヤツで目を逸らしたらヤバい事も知っているので、目は逸らさない。

 視界の端のイタリア人は完全に固まってる。


 睨み合って数秒。

 鬼は、無言で私とイタリア人の腕をつかみ、猛然と来た道を走り出した。


 う、腕が!肉体がないためか痛くは無いが、風のように流れる視界が恐怖感を醸し出す。


 イタリア人を見ると、ボロがめくれて顔が見えた。

 女性だったのか。

 18歳くらいに見えるが欧米人だし13歳くらいかもしれないな。

 涙の跡が横に伸びている。と言うか現在進行形で泣いている。

 いやね、この状況でこっち見られてもどうしようもないし。


 ん?女性なのに家のハードディスクが心配なのか?もしかして腐ってるのか?

 と失礼なことを考えながら、ノープロブレムと口パクで伝え、空いている手で頭を撫でる。

 やせ我慢は男の美徳だ。



 イタリア人は顔を強張らせながらうなづいてくれた。

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