表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

お嬢様の謝罪

 ご招待――それは、優雅な名前の強制連行だ。



 リーシャは、ディートハルト公爵に『足が痛いなら、二階の桟敷席へ行こう』と、誘われた。

「座れるから。それに演奏を聞く時は、あちらの方が音がいい」

 そう言う公爵閣下に、『いや、もう治ってますんで』と言える筈もない。


 だがしかし、公爵に腕を取られ、ゆっくりと階段を上りきってから、リーシャは激しく後悔した。


 (なに、ここ)


 真紅の絨毯を敷き詰めた通路に沿って、美しい彫刻をほどこしたドアが五つ並んでいる。傍らに立っている騎士は、護衛というやつだろうか? うん。それ以外ないね。

 リーシャの知っている桟敷席と言うのは、下の見えるバルコニーに沿って前後二列の座席が並んでいる場所だ。


「あの……閣下? ここは……」

「王族専用の桟敷席だ。中央は国王陛下専用だが、それ以外は私でも利用できる」

「ア……ソウデスカ」


 確か公爵の母上は、国王陛下の姉君だった。だから公爵は、王子たちに継ぐ王位継承権を持っている。

 そんなことも忘れて、『結婚を申し込まれたら』なんて言っていたさっきの自分を叱ってやりたい。失礼にもほどがある。


 一人の騎士が会釈をしてドアを開けた。

 ディートハルト公爵は、優雅な仕草でリーシャの背に手を添え、中へと促した。


「わあ、すごい!」


 目の前に広がる光景に、リーシャは歓声を上げた。

 正面には腰の高さの仕切り壁があるだけで、下の大広間(ホール)が見渡せた。中央に置かれたソファと小ぶりのサイドテーブルは、座席というより上質な調度品だ。両脇の壁側には花瓶から溢れんばかりの花が飾られている。

 桟敷席? もはやこれは大きな窓のある贅沢な個室だ。


「閣下っ! 天井画がよく見えますっ!」

 元気よく言ったリーシャに、公爵はプッと吹き出した。

 リーシャは天井を見上げたまま、不満そうに口を尖らせた。

「えーっ、どうして笑うの?」

「いや、失礼。天井画とは、意外だったもので」

「だって、普段はよく見られないじゃない。あんなに綺麗なのに」

「ああ……そう言われれば」

「でしょう?」

 振り返ってディートハルト公爵を見上げたリーシャは、そこでやっと我に返った。


 今、どこで、誰を相手に、しゃべっている――自分?


「た、た、た、大変失礼致しましたっ!」


 リーシャは床に座り込んで両手をつき、頭を下げた。お芝居などで、身分の低い者が王様にヘイコラするあの態勢である。


「リーシャ?」

 公爵は、リーシャの前に跪いた。

「もう色々、何もかも、申し訳ございませんっ!」

「顔を上げてくれないか? 何を謝られているのか、よく分からないのだが」

「へっ?」


 顔を上げると、戸惑ったような黒い瞳がリーシャを見ていた。


「あの……先程は、馴れ馴れしくお名前を呼んだり……」

「別に構わないが? 私もリーシャと呼ばせてもらう。貴女も名前で呼んでくれ」

「さも、結婚を申し込まれるような関係だと吹聴したり……」

「王妃陛下に一対一で紹介されたのは、結婚相手にどうかと勧められたのだと理解している」

「はいっ?! 何をおっしゃっているのです、閣下は――」

「クリスティアンだ」

「ええと……クリスティアン様は、王女様とでも結婚できるご身分ではありませんか」

「だから?」

「だから、わたくしなどにまとわり付かれては、ご迷惑かと」

「いいや。全く。その……何と言うか……私は社交下手でね。時々、何を話していいか分からなくなるんだ。貴女は、とても話しやすい。だから……その……貴女とこのまま付き合いたい」


 ピンときた。


「分かりました」

 リーシャは、にっこりと笑ってクリスティアンの手を両手で握った。

「会話の練習相手にしたいのですね。安心して下さい。どこまでもお付き合いします!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ