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お嬢様の嘘

「ヒルダ、わたしの事は気にしないで、踊ってらっしゃい」

 リーシャは、白い清楚なドレスを身にまとった妹にそう勧めた。

 今夜は、ヒルダのために出かけて来たのだ。自分と一緒に、壁の花になっているのでは意味がない。

「お姉様も踊るなら行きます」

 ヒルダがきっぱりとした口調で答えた。

「わたしはまだ足が痛いのよ」


 自宅の階段を踏み外して、二週間。リーシャは足首を捻挫して、ずっと家に隠りきりだった。その間、ヒルダまでもがずっと家にいたのには参った。

 お姉様を一人置いて遊びになんか行けない――ありがたいけど、それはどうかと思う。

 しかし思い返すと、今までのリーシャも同じようなものだった。

 二歳しか違わない姉妹は、いつもどこに行くのにも一緒。だからこそヒルダは、『お姉様を差し置いてウォルフ様を好きだなんて言えない』となったわけだ。頭が痛い。


「ねえ、ウォルフ、ヒルダを連れて行ってちょうだい」

 リーシャの言葉に、ウォルフは顔をしかめた。

「だが、それではリーシャが一人ぼっちになるだろう?」


 そこは素直に『一人』でいい。『ぼっち』を付けるな。


「わたしは一人でいいのよ。後でクリスティアン様と会うんだから」

「でも、お姉様……」

「もう、ヒルダったら! さっきクリスティアン様がわたしに合図をしていたの、見てたでしょ?」


 (うう……ディートハルト閣下、ごめんなさい。ご挨拶して下さっただけなのに……)


 メリッサ大伯母が落とした爆弾のせいで、リーシャとクリスティアンは王妃様公認で『結婚を前提とした節度あるお付き合い』をしている事になっている。主にドゥラック伯爵家限定で。


「お前、本当にディートハルト公爵と付き合つてるのか?」

 ウォルフが疑わしげに言う。子供の頃からの付き合いだけに、ウォルフはリーシャの嘘に鋭いところがある。

「もちろん……よ。言ったでしょ? 貴方には悪いけど、王妃様のお茶会で紹介されてお付き合いすることになったって」

「でも、お姉様が怪我をして家にいる間、お花ひとつ届かなかったわ」

 ヒルダの突っ込みも鋭い。

「……そ、それはね、クリスティアン様はモテモテでしょ? お付き合いしていることを他の令嬢に知られたら、わたしは嫉妬されて苛められてしまうから」

「本当に? お前、この間のこと、まだ誤解してないか? あれは、転びそうになったヒルダを支えるのに抱き止めただけだぞ。お前を裏切ったことはない」


 きっとそうなのだろう。ウォルフは誠実な男だ。それは、リーシャにも分かっている。


「でも、あの時、気づいたの。ウォルフはわたしよりヒルダの方が好みよね?」


 ウォルフは、リーシャが()けた時、あんな壊れ物を扱うように優しく抱き止めてくれたことはない。


「まあな。だが、ヒルダは可愛いし、しっかり者だ。他に嫁に貰ってくれる奴がいるだろう?」

「待って! わたしには貰い手がいないって言うの?」


 まさかヒルダも、『お姉様を差し置いて』ではなく、『お姉様には選択肢がないから』と思っている、とか?


「心配するな。俺がいる」

「心配してません! クリスティアン様は、わたしを可愛らしいって言って下さったんですからね」


 間接的ではあるが、確かに言った。


「おい、リーシャ……」

「お姉様……あの……」

「何よ? とにかくね、クリスティアン様に求婚された時、わたしがドゥラックの後継ぎだと困るでしょ? だから、貴方たち二人に伯爵家を継いでもらいたいわけ」


 鼻息荒く言い切ってから、リーシャはウォルフとヒルダの視線が自分の後ろに向かっていることに気づいた。


「……あ、ああ、リーシャ? ご機嫌よう」


 背後から低めの美声が、ためらいがちにリーシャに声をかけた。


 まさかのご本人様登場――


 (今すぐ死ねる。色んな意味で……)


 リーシャは、自分のタイミングの悪さを心底恨んだのだった。




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